★くんのお母さんもお父さんも★くんを心から可愛がっている方々です。
愛情をたっぷり注いで、しょっちゅうギューッと抱きしめています。
それにも関わらず、
「★くんがこれまで自分の言葉を十分に聴き取ってもらえず、自分の思いを受け止めてもらう心地よさを知らないから、荒れた行動をとっている」
という捉えるのは、親御さんたちに対して失礼にあたるかもしれません。
とはいえお母さんが近くにいる時の★くんは、まるで聞き分けのない2歳児のようにわがまま放題に振舞っているのも事実でした。
そこでいったんお母さんに離れておいていただいて、わたしと★くんがペアになって行動することにしました。
すると★くんは、「こういうことがやってみたい」というチャレンジ精神が薄いわけでも、大人の指示に素直に従えないわけでも、見たり聞いたりすることが苦手なわけでもないことが徐々にわかってきました。
もちろんふたりで過ごしだしたとたん、★くんの「困ったちゃんモード」が「いきいきしたしっかりさんモード」にコロッと切り替わったわけではありません。
でも、最初はこちらの声かけを無視したり、憎まれ口を返したりして対応していた★くんが、★くんの本当の気持ちに光を当てるうちに
自ら進んでお手伝いをしたり、一度は放りだした課題に再度取り組んだりするようになってきました。
そうするうちに★くんの内面には、個性的なさまざまな良い資質が潜在しているのにそれを発揮する機会がないために、わがまま放題な態度に終始しがちになっているのが見えてきました。
部屋を移動する時、わたしは★くんを呼びとめて、軽いけれどちょっとかさばる荷物のひとつを運ぶ手伝いを頼みました。
★くんは一瞬、驚いたような呆れたような表情をして固まっていましたが、少しすると苦虫をかみつぶしたような顔つきになって、「どうしておれが持たなきゃいけないんだよ!」と毒づきました。
わたしは他の荷物でふさがっている自分の両手を示しながら、こう静かにたずねました。
「★くん。★くんは、先生には弓矢のおもちゃちょうだい!あれちょうだい!これちょうだい!って頼んでばっかりで、先生がお願いすることは、どうしておれがしなくちゃいけないんだよって言うの?」
すると★くんはしばらく黙って突っ立っていましたが、急に決心したように、わたしの荷物に手をかけると運びはじめました。
「ありがとう」と言うと、黙ったままずんずん運んでいきます。
★くんはあまりしつこく言わなくても、自分でどうすべきかわかっている子だな、と感じました。
食堂でもこんなことがありました。
食事の準備を手伝うために手を洗うように言っても、★くんは聞こえないふりをしていました。
「食べ物にバイ菌がつくから、ハンドソープでていねいに手を洗ってね」
ともう一度だけ声をかけて様子を見ていると、むくれた表情で固まっていましたが、少しすると決心したように手洗い場に行って手を洗っていましたが、
洗い終わると濡れた手のまま水しぶきを飛ばしてふざけ始めました。
「洗面台の横に、手を拭くための紙タオルがあるでしょ。ちゃんと手を拭いて」と一度だけ言って様子を見ていると、そのまま知らんふりしてどこかへ行きかけたものの、急に決意した様子で紙タオルで手を拭きに行っていました。
★くんの内面では、指示に従うべきか無視するべきか、葛藤しているのがよくわかるのですが、その都度、しつこく言われなくてもより正しい態度を選べているようです。