虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

「見えない世界」の栄養

2021-10-23 21:00:25 | 日々思うこと 雑感

見えないものが見えるように 触れられるように 1

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↑ 学生だった頃の息子との会話の記事へのコメントで、次のような二つの言葉をいただきました。

 

⭐️発見したのは、こどもにとって「見えない世界」の栄養がとても大事なんだな、ということ。

⭐️ひとつのキーワードとしては、心、頭、感性を自由に働かせる、それに夢中になって時間のないところまで行く、ということなのかなと思いました。

 

どちらも、とても味わい深くて大切な言葉ですよね。

 

「見えない世界」の栄養って具体的にどんなものでしょう?

すぐにピンとくる方は、子どもと過ごすあらゆる場面でそれを見いだしていることでしょう。

でも、わからない、という方は気づかないだけではなく、子どもにより良いものが与えたくて、「見えない世界」と「時間のないところまでいく」体験を減らすことに躍起になっているかもしれません。

そこで、レッスンの中から、子どもたちが「見えない世界」から栄養を得ているなと感じた瞬間をいくつか切りとってみることにしました。

今日は2歳9ヶ月のAちゃんのレッスンでした。

まだ冬休み中なので、年長のお兄ちゃん(Bくん)も付いてきていました。

「工作をしよう」という流れになって、わたしがビー玉コースターの簡単な作り方を披露しました。

2歳児さん向けの見本ですから、「できるレベルであること」「やってみたいと思うような感覚的な楽しみを伴うこと」「すでにできることをベースにすること」の3点が大事です。

幼い子には『興味があって自分ができそうなこと』しかきちんと見えていないようなところがありますから。

 

両面テープを画用紙に貼って、はがします。

 

上の写真のようなレールの作り方なので、大人が作ってあげようとすると、「先に画用紙を切って、両端に両面テープを貼る」という順序で作ってしまいがちです。

もちろん、その方が仕上がりがいいのですが、それだといきなり難易度が上がって、2歳児さんの想像力では作業の流れをつかむのは難しいのです。

また、もし訓練でそれができるようになっても、他の工作でできるようになったことを応用しにくいのです。

そこで、テープを貼って、はがして、はがした後にストローを乗せて貼ります。

それからはみ出している部分をはさみで切り取るのですが、その部分を大人がしてあげたとしても、見ていて、何をしているのかわかりやすいので、先の順序よりずっと学びやすいです。

 

わたしが両面テープを貼って見せて、先っぽを少しはがしてみせると、Aちゃんはそれをペリペリはがして上機嫌でした。

「ここをはがしてごらん」と教えるよりも、思わずはがしたくなるような状態を作る方がわかりやすいです。

Aちゃんは、うまくはがせたことで自信を得たのか、今度は自分で両面テープを貼り始めました。何本も。

こんな時に、大人が仕上げたいものを意識して、「ここにこうして貼って……」とか

「2本までね」とか指示しないで(年齢によって、きちんと手本や指示通り作るよう教えるのが大事な時もあります)、よほどの無駄使いでもしない限り、何度もやりたがることに熱中させてあげるのがいいと思っています。

次のアドバイスやお手本を見せるのは、本人が退屈しだした時でいいし、見本ではなく、大人は大人で自由に制作活動に興じるのもいいと思います。

Aちゃんは、ここまでこちらのお手本に添って作っていましたが、そこからは、自由にはさみであれこれ切りだしました。

Aちゃんが空き箱を切ろうとした時、お母さんが、「Aちゃん、それ固いよ」と注意したのですが、Aちゃんはどこ吹く風。ゆっくり着実に切っていきました。

Aちゃんは4歳違いのお兄ちゃんと同年代だと信じているような二人目ちゃん。

観察力の高く慎重に行動する一方で、

「それはAちゃんにはまだ難しいよ」というニュアンスの忠告をされると、

俄然やる気になるタイプなのです。

 

大人だって固くて切りにくい空き箱をチョキチョキした後で、得意気にそれを開いたり閉じたりしながら、「ご本ができちゃった」と言いました。

 

こんなふうに自分でやってみたことが何らかの形になって、おまけに自分で見立てることができた時、幼い子たちはどんなすばらしいものが手本通りできた時よりもうれしそうです。

わたしは、Aちゃんの作った本を開いて、読む真似をしました。

「Aちゃんが、おかいものにいきました。おしまい」とか

むかしむかしあるところに、うさぎさんとかめさんがすんでいました」という具合に。

すると、Aちゃんは笑顔をはじけさせて、切った箱のもう一方も開いてみて、それも本のように見えるのがうれしくてたまらない様子で作品をぎゅっと胸に抱きました。 

一回、真っすぐ切っていっただけで、二つもできた作品と呼べないような作品。

でもAちゃんにとっては、何も代えられないすごいもののようです。

  

「ご本ができた」と見立てたとたん、それまで箱だったものが、本に見えて、本として関わって遊ぶことができる、ということは、まさしく「見えない世界」の栄養分。

『星の王子様』の童話にあるような、王子様には見えるのに、『数字が好きで、一番大切なことは何も聞かない大人たち』には見えなくなってしまった世界からの贈り物なのです。

 

 

「Aちゃん、よかったね。2冊も本ができたのね」とお母さんが声をかけると、Aちゃんは目をキラキラさせて、次の箱を切り始めました。

 

切った後で、Aちゃんはセロテープをペタペタ。何枚も何枚も。

「切ったり折ったりした後で、セロテープでそれを覆うのが好きな2、3歳の子って多いんです。

紙を折って、テープで封印してテレホンカードみたいなものを大量に作ってから、『お手紙』と命名する子たちがいますよ」と言うと、

Aちゃんのお母さんが笑いながら、「そうなんです!うちでも折り紙を折って、テープで完全に貼り合わせてお手紙を作っています。

それも、内側が色がついている面になるように折るので、裏の白い面だけの同じようなものがいっぱいに……」と返しました。

 

Aちゃんの作品(切った後でテープで貼り合わせた紙)を使って手品ができるようにお菓子の箱に細工をしてあげました。

引き出し式になっている内箱を半分で切って、逆さまになるように貼り合わせると、入れた紙が、箱を逆さまにすると出てくるようになるのです。

引き出す際に小さな覗き穴から顔のマークが見えるようにして、その顔を押して、箱をひっくり返すと、上から入れたはずの紙が下からでてきます

……という仕掛け。

 

これはお兄ちゃんのBくんが、箱を覗きこんで不思議がって、「どうして?どうなってるのかなぁ?」と夢中になっていました。

模倣が上手なAちゃんは、手品のタネはいまひとつわかっていない様子でしたが、たちまち、手品の演じ方を覚えて披露してくれました。

 



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