毎回、奥様の愚痴は聞き流すしかないのであるが、ある日、「罠」にはまってしまった。いつものようにご主人に関する愚痴も2周目のサイクルに入ると同じ話は自分の耳には入ってこない。別のことを考えながら「ウンウン」と頷いて相槌だけはうっていた。しばらくして奥様の少し強い口調で我に返った。「ちょっとお、先生、そんなに同情してくれなくてもいいんですよ」 しまった、どうやらかなりきつくご主人の悪口を奥様は言っていたらしい。そこで不用意にも大きく「ウンウン」と大きく頷いてしまったものだから、私がご主人を悪者扱いしたものととられたようだ。私は奥様のご主人に対する愚痴は「そんなことないですよ。とてもいいご主人じゃないですか・・・」と切り返さなければいけなかったことに気がついた。後の祭りである。なんのことはない奥様のいつもの愚痴は実は「ご主人自慢」の裏返しだったのだ。しかしながらそんな禅問答やアンチテーゼみたいなことが外来で要求されるとは思わなかった。ごちそうさま。とても仲の良い微笑ましいご夫婦です。