とても原因が何かあるような感じではなく、いわゆる加齢に伴う老衰状態と思えなくもなかった。呼吸が粗いので動脈血ガス分析をとってみたら理由の付かない酸血症(acidemia)(BEの低下)が見られた。しかし糖尿病の悪化ととれないこともない。本当にまよったが、唯一認められる軽度の腹部圧痛が気になったので開腹手術を決めたのである。患者は少し不穏状態であり意識は朦朧としていた。ご家族に話をしたが、正直「不必要な開腹手術」になるかもしれないというためらいがあった。同業者である医療側からいわせると、これで開腹手術に踏み切るのは「無謀」と言われるかもしれない。これでもし開腹して何もなかったら家族からきっと文句をいわれるであろう。文句だけならまだしも、この手術侵襲で患者の生命にまで影響があれば医療訴訟にもなりかねない。さていよいよ開腹してみると、小腸が約20cmほど捻転をおこし昔、虫垂炎の手術をしたところの腹壁に癒着して絞扼されていた。その20cmの小腸部分はすでにどす黒く壊死を起こし、穿孔しかけていたのである。その壊死小腸を切除して吻合して手術を終えた。