■Tシャツを自分でデザインし売っていた。
そこへ彼女がやってきた。彼女には一枚献呈してあったのだが、デザインはともかく、その色目が気に入らないから換えてくれという。
私のそばにもう一人の女性がいて、「アラ、あなたにはそれがぴったしよ。ほかの色なんてかえっておかしいわよ」という。
先の女性は意志の強さでは定評がある。
「じゃぁ、いただかなくとも結構よ。あらためて買うわ」といって傍らのレジに2,900円を投げ込むようにして入れると、自分のお気に入りの色目のものをわしづかみにして去っていった。
■喫茶店で本を読んでいた。
突然、女性の声が聞こえた。
「アラ、私の車がなくなっているわ」
振り返ると顔見知りの女性だった。
「どうしたんですか」とたずねると、「ヴァイオリンのお稽古の帰りにね、この店の前に車を止めてお茶をしてたの」という。
なくなったのはほんの十数分ぐらいの間のことで、もちろん施錠がしてあり、駐車違反でもないところだった。
店のマスターを呼んでたずねると、「あ、今度は車ですか。昨夜はうちの冷蔵庫がなくなりましてね」と何やら悲痛な表情をして天を仰いだ。
■「もう憶えてはいませんか」と声がした。
何のことかなと思って彼女の顔を見つめる。
「まあ、誰でもそんなことは覚えてはいたくないですよね。ましてやそれが身内のことだったら」
「身内のことというと」
「あなたの弟さんのことですよ。ホラ、酔っぱらって縁側から転げ落ちた」
いわれればそんな光景が目に浮かぶ。
でも、あれはほんとうに弟のことだったのだろうか。そもそも、私に弟がいたのだろうか。
「まあ、いいです。思い出したらメールでも下さいな」
と、彼女は私の顔を見ないようにしながら去っていった。
■知り合いの飲食店で、その店の亭主とカウンター越しに飲んでいた。
背後でガラガラッと戸が開いて、どうやらこの屋の女将さんがどこかから帰ってきたようだ。
「六さんが来てらっしゃるよ」と、亭主。
私が振り向いて挨拶をする暇も与えず、女将は私の背後に回り両方の肩に手を置いて、「ア~ラ、ほんとうにお久しぶりね」という。
ちゃんと相手の顔を見て挨拶をしたいのだが、真後ろ過ぎて顔が見えない。
首をめぐらそうとすると、女将もまたその方向とは逆に顔を逸らし、どうしてもその顔が見えない。それを2、3度繰り返すうちに、私の中に疑念が湧いてきた。声もそっくりなのだがこの女性は私の知っているあの女将ではないのではないか。
そう思って正面の亭主を問いただすように見ると、彼は困惑をしたような笑みを浮かべたかと思うと、いきなり自分の顔を両手で挟んで、ムンクの叫びのような表情をして見せた。
* * * * * * *
こんな細切れの夢を幾度も見たせいで、寝起きがきわめて悪かった。
今日しなければならないことがどっさりあるのに、それに取りかかる気がしない。
とりあえずは些細な雑用だけして、どうして私はちゃんとことに取りかかることができないかの言い訳としてこんなものを書いている。
難儀なことである。
どっかで車が急発進する音がした。
あ、クスリを飲まなくちゃぁ。