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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

はしごの日々と新しい床屋さんとの遭遇

2012-05-08 23:43:42 | よしなしごと
  写真は本文に関係なくたまたま同じ日に撮したもの。

 4月中はややうつ気味でほとんど外出しなかった。
 その反動か5月はいささか躁に近い。
 外出は良くするし、おまけにいろいろはしごをする。
 昨日(7日)は映画2本とコンサート。
 
 映画はジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ兄弟監督の『少年と自転車』。
 この監督のものは『ロゼッタ』以来、『ある子供』『息子のまなざし』と追いかけてきたがはずれはなかった。彼らの作品にはストーリー展開に媚びない独特のリアリズムがあるように思う。そして、それが結果としてありきたりではないドラマを生む。

       
                  ハルジオンの原っぱ

 もう一本は豊田利晃の『モンスターズクラブ』。
 この監督の『空中庭園』、とくに最後のキョンキョンの大絶叫がお気に入りだったが、その後彼はヤクでパクられてしまった。
 しばらくの自粛後、2、3本を撮っているが、いずれも評価が激しく分かれている。
 私の中でも分かれている。だからコメントは控える。
 ただし、冒頭、現代批判のようなものを主人公のモノローグとしてかなり長い時間聞かせるが、そしてまたそれが注意力をもって聞かねばならない内容なのだが、これってありかなぁとしばし考えこんでしまう。

 夜は、森下幸路(V)と小林五月のデュオ・リサイタル。
 メインはブラームスのソナタ第一番「雨の歌」。
 シューマンの「アダージョとアレグロ変イ長調」が聴けたのが良かった。
 いい演奏会なのに、連休明けのせいか、観客が少なかったのが惜しまれる。

    
       この絢爛豪華な花は? 葉っぱからするとダリアのようだが

 さて、今日(8日)もはしごをした。
 映画やコンサートではない。
 外科、内科、そして床屋のはしごである。
 病院の話は陰気になるからよそう。

 で、床屋であるが、ここ10年ぐらい行きつけていた床屋が突然閉鎖してしまった。
 仕方なしにまったく違うところに入った。
 開店間もない、綺麗な床屋さんだが、なんかちょっと変わった雰囲気を感じた。職人さんはひとりで、先客がひとりいたのでそれが終わるのを待っていたのだが、やはりなんだか感じが違う。

 しばらくして気づいたのだが、音がないのだ。
 前に行っていたところのようにバックグランドの音楽もない。そればかりか、職人さんと客の対話もない。
 ただ、作業をする音と、時折職人さんが客に何かを促す声(?)がかすかに聞こえる程度なのだ。

       
                 もう、梅の実がこんなに

 そこに至ってやっと気づいた。
 この職人さんは聾唖者なのだ。
 小学生の頃、自宅近くに聾学校があってそこの子たちとよく遊んだことはあったが、そうした人に身近で接するのは久しぶりだ。

 私の番になった。
 短くしてほしいというと、バリカンを差し出して「ん?」と尋ねる。それを使用してもいいかの確認だ。「どうぞ」と答える。
 体の向きを変えたりする場合など、優しく手を添えて促すので何不自由なく意思が伝わる。

 仕事は丁寧だ。散髪前に洗髪をするのでオヤと思ったが、散髪後にちゃんと本番の洗髪をしてくれる。
 カミソリ使いも丁寧だ。

 実は、私は床屋があまり好きではなく、約70年間の間、臨時の飛び込みは除いて数件の床屋さんしか知らない。
 嫌いな理由は、体をいじくりまわされるのが苦手なのと、不本意な会話を強制されるのが嫌だからである。
 とりわけ、メディアの受け売りの偏った情報に相槌を求められるのは全くもって困りものなのだ。
 「あんた、それは偏見でしょう」と言い返してやりたいこともあるのだが、こちらは椅子に縛り付けられていて、おまけに相手は刃物を持っている。

       
                  満艦飾のキンセンカ

 その点、ここはいい。すっかり気に入った。
 前の床屋では40分ほどで済ませていた作業を(それはそれでメリットだが)、ここは一時間みっちり丁寧にやってくれる。
 料金を払う段になったら、料金表を指さした。ちゃんとシニア料金の欄を指している。ちなみに、前のところとまったく同じ料金だ。

 これからはここにしようと思う。
 ハンディのある人に同情するなどという不遜な気持ちではさらさらない。
 彼の仕事と佇まいは、きっちり私の要求に合っていて、私にメリットをもたらすものなのだ。

 帰り際に、「ありがとう。また来るよ」といったら、にっこりして「ありがとうございました」といった。
 頭もこざっぱりしたが、いいとこが見つかったと気持ちもこざっぱりした。


 

コメント (2)
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