久しぶりに星が丘へ行った。とはいえここへはしばしば行っている。
お目当ては9階にある三越映画劇場である。
ここは今池にあるキノシタ・ホールと並んで、良質な映画の二番館として貴重な場所である。
公開時に、心ならずも見逃したものをしばしばここで観る。
しかしながら、場所は名古屋の東部に位置する街、岐阜からわざわざは出かけにくい。この日は、たまたま名古屋での集まりがあり、その流れを利用して足を伸ばしたわけである。

ところが、その前の集まりが終わった時間と、映画の始まる時間とが空いてしまったので、ほんの少しだが周辺を歩いてみた。
今でこそすっかり山の手の風情を持つ街だが、私が初めて名古屋へ来た半世紀以上前には、市電はもっと手前の東山公園までしか来ておらず、そこから先、つまりこの星が丘界隈は未舗装で、雨が降ると赤土がぬかるみ、低い灌木の山々の間に村落が点在すような場所だった。

その頃に、というかしばらくして市電が星が丘まで開通した頃に、この街を訪れたことがあるのだが、それがどんな用件だったのか今となってはとんと思い出せない。とにかく若い頃はあちこちふらふらしていた。今のように、携帯やメールがあるわけではないので、なにか用件があり、人と会うとなるとそこを尋ねるしかなかったのだ。

そんなことを思い出しながら散策しているうちに、映画の時間が迫ってきた。
映画は『奇跡のリンゴと』という、無農薬無肥料の木村式メソッドでリンゴを栽培しようといういわば苦労話で、それらは最後に必ず成功するという意味で予定調和的といえばそれまでだが、しかし、そうした予備知識にもかかわらず意外と面白かった。
そのひとつは、お岩木山を中心とした弘前地方の雄大な自然が満喫できるようなカメラワークが随所に見られたことである。
ストーリー展開にしてもそれほど安易な成功譚ではない。まずはその年月の長さが予想外だった。この栽培法がやっと実を結ぶのに何と11年を要しているのだが、その間、電気も止められるような赤貧を洗うごとき生活や、周辺の人間関係のこじれや変化など、その推移が淡々と描かれてゆくだけにその歳月の重さが余計偲ばれる。
キャストもいい。阿部サダオが朴訥でしかもひたむきなな主人公を好演していたし、その妻を演じた菅野美穂も、これまでの比較的きらびやかな役どころとは違って、汚れ役とまではいわないが、地味で、それでいて芯の強い女性を巧く演じていた(映画が終わった後、私の後ろにいた人が、クレジットを観て、「え、あれって菅野美穂だったの」と驚いていた)。
脇ではやはり山崎努だろう。こうした親父の役はまさにはまり役という他はない。他には、三人の女の子たちがいい。暗く、苦しい場面もあるのだが、こうした子どもたちの佇まいは、観ているこちらを和ませてくれる。


さて長くなってしまったが、この映画を観た動機を語らねばなるまい。
ネットで知り合ったMJさんという方とこの春、一夕を岐阜で過ごしたことがあった。その方が後日、送ってくれたのが「奇跡のリンゴ」ならぬ「奇跡の酒」であった。やや甘いかなとは思ったが、芳醇でとても美味しいお酒であった。
そのお酒がなぜ「奇跡」なのかというと、その酒米が、まさに、「奇跡のリンゴ」を生み出した木村式無農薬無肥料の方法によって栽培されたものだったからである。
そうしたことで、MJさんから伺った話からも、私自身が調べたことからも、この「奇跡のリンゴ」についての予備知識は持っていた。
この映画の公開は6月だったのだが、いろいろな都合で見過ごし、気づいたら上映期間が終了してしまっていた。
それを冒頭で書いた三越の二番館で改めて観たという次第なのだ。
MJさん、改めていろいろありがとうございました。
お目当ては9階にある三越映画劇場である。
ここは今池にあるキノシタ・ホールと並んで、良質な映画の二番館として貴重な場所である。
公開時に、心ならずも見逃したものをしばしばここで観る。
しかしながら、場所は名古屋の東部に位置する街、岐阜からわざわざは出かけにくい。この日は、たまたま名古屋での集まりがあり、その流れを利用して足を伸ばしたわけである。


ところが、その前の集まりが終わった時間と、映画の始まる時間とが空いてしまったので、ほんの少しだが周辺を歩いてみた。
今でこそすっかり山の手の風情を持つ街だが、私が初めて名古屋へ来た半世紀以上前には、市電はもっと手前の東山公園までしか来ておらず、そこから先、つまりこの星が丘界隈は未舗装で、雨が降ると赤土がぬかるみ、低い灌木の山々の間に村落が点在すような場所だった。


その頃に、というかしばらくして市電が星が丘まで開通した頃に、この街を訪れたことがあるのだが、それがどんな用件だったのか今となってはとんと思い出せない。とにかく若い頃はあちこちふらふらしていた。今のように、携帯やメールがあるわけではないので、なにか用件があり、人と会うとなるとそこを尋ねるしかなかったのだ。


そんなことを思い出しながら散策しているうちに、映画の時間が迫ってきた。
映画は『奇跡のリンゴと』という、無農薬無肥料の木村式メソッドでリンゴを栽培しようといういわば苦労話で、それらは最後に必ず成功するという意味で予定調和的といえばそれまでだが、しかし、そうした予備知識にもかかわらず意外と面白かった。
そのひとつは、お岩木山を中心とした弘前地方の雄大な自然が満喫できるようなカメラワークが随所に見られたことである。
ストーリー展開にしてもそれほど安易な成功譚ではない。まずはその年月の長さが予想外だった。この栽培法がやっと実を結ぶのに何と11年を要しているのだが、その間、電気も止められるような赤貧を洗うごとき生活や、周辺の人間関係のこじれや変化など、その推移が淡々と描かれてゆくだけにその歳月の重さが余計偲ばれる。
キャストもいい。阿部サダオが朴訥でしかもひたむきなな主人公を好演していたし、その妻を演じた菅野美穂も、これまでの比較的きらびやかな役どころとは違って、汚れ役とまではいわないが、地味で、それでいて芯の強い女性を巧く演じていた(映画が終わった後、私の後ろにいた人が、クレジットを観て、「え、あれって菅野美穂だったの」と驚いていた)。
脇ではやはり山崎努だろう。こうした親父の役はまさにはまり役という他はない。他には、三人の女の子たちがいい。暗く、苦しい場面もあるのだが、こうした子どもたちの佇まいは、観ているこちらを和ませてくれる。



さて長くなってしまったが、この映画を観た動機を語らねばなるまい。
ネットで知り合ったMJさんという方とこの春、一夕を岐阜で過ごしたことがあった。その方が後日、送ってくれたのが「奇跡のリンゴ」ならぬ「奇跡の酒」であった。やや甘いかなとは思ったが、芳醇でとても美味しいお酒であった。
そのお酒がなぜ「奇跡」なのかというと、その酒米が、まさに、「奇跡のリンゴ」を生み出した木村式無農薬無肥料の方法によって栽培されたものだったからである。
そうしたことで、MJさんから伺った話からも、私自身が調べたことからも、この「奇跡のリンゴ」についての予備知識は持っていた。
この映画の公開は6月だったのだが、いろいろな都合で見過ごし、気づいたら上映期間が終了してしまっていた。
それを冒頭で書いた三越の二番館で改めて観たという次第なのだ。
MJさん、改めていろいろありがとうございました。