六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

猫と桜と日記と落語(風)

2010-04-05 00:17:42 | よしなしごと
    
        マイ桜ロード うちから5分の安・近・短

 「ひともすなる花見といふものを、猫もしてみむとて、するなり。それの年の四月の四日余り、一日の日の未の時に、木に登る。そのよしいささかにものに書きつく」

    
 
 と、いうようなわけで、私こと猫がが花見を致しておりますと、ここにおなじみの少々ぼ~っとしたオッサン、郵便ポストに投函しましたついでに「マイ桜ロード」と密かに名付けて悦に入っております桜並木へとさしかかったわけでございます。
 この日は陽気もよろしかったようで、「マイ桜ロード」のわりにはそぞろ歩く人も多少あり、かのオッサン、それらの人々に会釈など致し、ときには「どうです、ここの桜きれいでしょう」と、まるでオーナー気取りで話しかけるなど、全くいい気なものでございます。

    
                樹下、読書の図

 しばらく行きましたところで、そういえば玄関に施錠し忘れたことを思い出し、「これはいかん、泥棒にでも入られたら大ごとだ」と引き返しにかかったのでございます。
 これもまあ、見栄のようなものでして、前にも一度、泥棒様のご訪問があったのですが、どう調べても何も盗られていなかったそうでございます。しかも、その泥棒が捕まりまして、警察からの問い合わせがあったそうでございます。

    
       散り始めた花びらの帽子をかぶって得意げなタンポポ

 「実は、逮捕した男がお宅にも入ったことを自供したのですが、入るには入ったものの盗るものが何もなかったのでそのまま帰ったといっているのですが間違いありませんか」
 と電話口で、刑事とおぼしき人間が大声でまくし立てるものですからとても恥ずかしい思いをしたそうでございます。それなのに、そんなことは忘れたのかそそくさと帰路についたのでございます。

    
      ここにも花びらが でもまだ花筏には早いようだ
 
 そうしてオッサンは、私がのぼっている木のところへさしかかったのでございますが、私を見つけるなり急ぎの帰宅もすっかり忘れ、早速、ケータイなどを取り出しカッシャン、カッシャンとうるさく撮り始めたのでございました。
 一方、私めは、ほのかな花の香に包まれてうつらうつらしておりましたが、オッサンは「オイ、オイ」と声をかけ、目を開くよう呼ばわっている気配なのでございます。私ども猫にとりましては、寝るのが仕事のようなものですから、人間様の勝手で目を開けるわけには行きません。ましてや飼い主でもない素性の知れぬオッサンに命令されるいわれはありません。

    

 そんなわけでしばらく無視していましたが、なおもしつっこく、放っておいたら木に登ってきそうな勢いでしたので、たまらずサービスに少しだけ薄目を開いてやりました。それでもなおうるさくつきまとうのでさしもの私も堪忍袋の緒を切らせいってやったのでございました。
 「オッサン、早く帰らないと泥棒がくるんじゃぁなかったのかい」
 「あ、驚いた。おまえ口がきけるのか。そうは見えないのになぁ」
 「なあに、猫をかぶっていたのさ。こう見えても漱石の『猫』の直系の子孫で、『三毛猫ホームズ』とは従兄弟の間柄だ」
 オッサン、ますます驚き、猫のように目を丸くするのみでした。
 「そればっかりじゃない。前に泥棒に入られたとき盗られるものが何もなかったことも知ってるぞ」
 「わっ、そんな恥ずかしいことまで。な、頼むから誰にもいわないでくれ」
 と、急にオッサンは猫なで声に。
 「わかった、わかった、わかったから早くここから立ち去ってくれよ」
 「本当に人に言わないだろうな」 
 「しつっこいなぁ。そんなこと口が裂けてもいわないよ」
 「あ、それだから信用できない」
 「どうして」
 「鍋島騒動の猫は口が耳まで裂けてしゃべる」
 「・・・・・・」 もう、ニャンともいいません。
 
 気をよくしてオッサンが突っ込みます。
 「で、どうして猫のくせに『土佐日記』なんだ」
 「ああ、冒頭のあれか。土佐といえば鰹、鰹といえば鰹節。猫に鰹節で『土佐日記』」
 「・・・・・・」 今度はオッサンが黙る番です。

    
            別アングルのマイ桜ロード

  
  <おまけ>
     猫はいさ心もしらず歳ふらばひとは加齢の香ににほひける
                        -------奇之つらら雪

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モルバランとメルリッチェル 最後の物語

2010-04-04 02:51:44 | インポート
    

《まえおき》
 二月の終わり頃、ふとしたことで自信喪失のような自己嫌悪のような気分に襲われ、一週間ほど何も書けず、その後も、仕事上の文書や何かへの応答としてはともかく、積極的に「私は」で始まる文章が書けなくなりました。
 そこで考え出したのが「モルバランとメルリッチェル」という架空の人物を登場させてのメルヘン風のお話でした。しかし、いつまでもこの二人のお世話になっているわけにはゆきません。そろそろ自力で表現できるようにしたいと思います。
 そんなわけで、この二人のお話は今回が最終回です。
 
 もとよりこの二人は、電脳空間に私が仮に置いたアバターのようなものですが、その二人にずいぶん助けられました。
 モルバランとメルリッチェルに感謝します。
 そしてこの二人が、今後とも、どこかの仮想空間で元気に過ごすことを祈りたいと思います。


    
    

 モルバランがいつものように駆けてきた。
 「アラ、どうしたの、なんか複雑な表情をしているわね」
 と、メルリッチェルが訊ねた。
 「そうかもしれない。事実、複雑な心境なのだ」
 「何かあったの」
 「何にもないといえば何にもない。ま、もとへ戻るということだ」
 「なによそれ、さっぱりわからないわ」
 「つまり、もう俺の出番はなくなったってこと」
 モルバランはメルリッチェルをしっかりと見据えていった。
 「もうここへは駆けてこないの」
 と、メルリッチェル。
 「そういうことだ。でも、ここへは来ないが駆けることはやめない」
 「じゃ、どこへ駆けてゆくの」
 「これからも俺を必要とする人や場所へ」
 そういうと、モルバランは駆け始めた。
 「待って、私も一緒に行くわ」
 とメルリッチェルもあとを追った。
 
 一陣の風に散り始めた桜が舞った。

   写真はいずれも名古屋市東区にて 四月三日
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

《ゴシニミール》とモルバラン

2010-04-02 14:00:29 | 写真とおしゃべり
    

 モルバランが相変わらず駆けてきた。
 「今日はどこへ行ってきたの」
 と、メルリッチェルが訊ねた。
 「街の中へ行ってきた」
 と、モルバラン。
 「へ~、珍しいわね。それで何を見たの」

    
 
 「《ゴシニミール》」
 「なに、その《ゴシニミール》って」
 「ほらこれさ」
 といって、モルバランは数枚の写真を見せた。
 「え~と、え~と、確かに街の写真だけど・・・」
 メルリッチェルはその共通点を探した。
 「そういえば、みんな窓越しみたいな写真ね」
 「だから、《越しに見る》といったろう」
 「うそ、少しアクセントをつけて《ゴシニミール》っていったじゃない」
 「どちらでも一緒だ。春だから格好つけてみた」

      
 
 「春は関係ないわよ。で、窓越しだとどう違うの」
 と、メルリッチェル。
 「いつもの景色と違って見える」
 「そういえばそうね」
 「でもこれは特別なことではない」
 と、モルバラン。
 「どうして」
 「誰もが何かを見るとき、○○越しに見ているからさ」
 「○○越しの○○って」
 「そう、この写真のように実際の枠の時もあるし、目に見えない気持ちの時もあるし、 考え方の時もある」

    
 
 「それが○○越してこと」
 「そうさ、だから同じものを見てもみんなが同じように見ている訳じゃない」
 「それはそうね。それがひどくなると、ある人には見えて、あるひとには見えないこともありそうね」
 と、メルリッチェルが問題の枠をぐっと広げた。
 そして、いたずらっぽくいった。
 「ちょうどあなたが私を見るようにね」
 「そんなことない。ちゃんと見てる」
 と、少し慌ててモルバランがいった。
 「アラ、ちゃんとかしら。本人がそう思っててもやはり《ゴシニミール》でしょ」

    
 
 モルバランは一本とられた表情で立ち上がって駆けだした。
 「今度はどこへ行くの」
 「いろいろな《ゴシニミール》を探してみる」
 そんなモルバランの後ろ姿をメルリッチェルは春の陽射し「越しに」見送っていた。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

何も言わないモルバラン

2010-04-01 12:10:11 | よしなしごと
    

 いつものようにモルバランが駆けてきたが、メルリッチェルを見ても軽く会釈をしただけで通り過ぎようとした。
 「アラ、モルバラン、今日は水くさいわねぇ。黙って通り過ぎるなんて」
 しばらくいったところで、モルバランは立ち止まり、振り返っていった。
 「今日は何もしゃべらないんだ」
 「どうして」
 「だって、今日は何を言っても嘘にされてしまうだろう」
 というと、また駆け始めた。

 メルリッチェルのあきれたような視線を背後に感じながら、モルバランは考えていた。
 いっそのこと、大声で叫んでやろうかな。「気をつけろ!地球が落ちてくるぞっ!」って。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする