ベンチにいる姿を見ても、何となく普通っぽくていいなぁと思っていましたが、いろいろな報道を読むと、ある意味で普通で、ある意味ですごい監督なのだと思いました。
池田高校・蔦監督、PL学園・中村監督、常総学院・木内監督、智弁和歌山・高嶋監督、横浜・渡辺監督、帝京・前田監督など、オーラがある名物監督が数多くいますが、そんなオーラは、小倉監督には感じません。
副将だった現役時代、「何時間も怒られて、許してもらえず、残るのは監督への不満だけ。最後の夏は、ただ休みたかっただけ」だということです。自分のこうした経験を、負の連鎖でつなげていく道を選ばず、自分が選手だった時に感じたことをそのまま指導者として実践する道を選んだのですね。選手に真っ当な努力を求めつつ、それ以外のところでは自由にさせるという、おおらかな監督さんのようです。
練習では厳しいことを言いながら、いい点があれば、すぐに褒めることが出来るそうです。自分の「威厳」とか、「立場」にとらわれない器なのですね。寮の監督室に選手を招き入れて、甘いものやフルーツで選手をもてなしつつ話をしたり、今大会でも、2回戦までの間隔が長いことからUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)に遊びにいくことを許可したそうです。大会中にUSJってちょっと考えられませんよね。練習でもノルマとして何回素振りをしなければいけないということはないそうです。それでも、選手自身が必要と思えば、いつまでも素振りをするそうです。
こうした小倉監督の指導があればこそ、あれだけのタレント集団でありながら、おごらず、騒がず、いつも冷静にプレーをしていたのでしょうね。私は個人的には、打力不足でレギュラーと控えを行き来していて必死なプレーで今大会レギュラーの座を死守した谷口選手のひたむきなプレーが好きでしたが、畔上、横尾、高山といったスタープレーヤーでも、淡々と着実なバントを決めるチームであるからこそ、おのずと誰もが真剣になります。
そういう力を引き出したのは、小倉監督の力なのでしょうね。教え込むのではなく、引き出す。まさに最近のコーチングの理論そのままですね。もちろん、技術的な指導だってあるのだと思いますが、今大会でも一番のポイントとなった指示は、「低めの難しい球は打てない。ベルト付近の球を狙え」というものです。何だ当たり前だと思われるかもしれませんが、一番大事なことです。
あの落合監督が言っています。「(落合は)右打ちが得意だから外角に投げてはいけない、と相手から思われているうちは、ずっと現役でいられる(外角低めが一番打てる確率が低いから)」。巨人監督の原さんは、失投しか打てないと揶揄されることが多かったですが、原さんに限らず、落合でも、松井でも、あの王さんだって、基本的には失投を打っていたものです。
小倉監督の言っていることも基本的には同じことです。さらに、すごいのは、普通だったら、見逃し三振だったりしたら怒りたくもなりますが、自分が指示した「低めは捨てろ」を守った結果であれば、見逃し三振も構わないと言える強さですね。だからこそ、序盤でなかなか点が取れなくても、しっかり球を見極めて、相手が疲れてきた頃に大量点で畳み掛けるという攻撃が出来たのでしょうね。
責任をとれる人が少なくなっている現在、監督自身が「一番プレッシャーを感じていた」というには非常によく分かります。これだけの戦力を擁し、優勝候補に目され、勝たせられなかったら自分のせいだと。しかし、どんなに強いチームでも絶対に勝てるということはないと、野球をやったことがある人なら、誰でも知っていますが、そう思っていたのはやはり責任感の強さです。
そして、選手の方も「監督を男にしたい」、「監督を胴上げしたい」と思っていたこと。これこそが、まさに小倉監督が「監督への不満が残り、最後の夏はただ休みたかっただけ」の真逆に関係ですね。
その言葉通り、選手たちが躍動し、一番長い夏を経験し、楽しんで、いつまでも野球をしていたいと思える夏をすごせたのですね。
暑かったり、寒かったり、大変ですが、良い夏でした!