現実の人間に抱かれている獣的な心理、これは彼が属する社会の安定性が脅かされると、
その心に自然発露します。社会保全動機は動物的本能に根ざしているからです。
とりわけ時の統治者は社会成員の保全動機を一心に体現していますので、
この種の驚異に異例に敏感になる。そして彼の人格には獣性が自然に表面化するのです。
統治者に獣性、残忍性優位の行動が現れる事象は日本史にもたくさんみられます。
古代には有馬皇子、大津皇子といった天皇の皇子が為政者の兄によって、
謀反の嫌疑で無慈悲に殺されています。
万葉集に収められている~
「盤代の 浜松が枝を引き結び ま幸くあらば また環り見む」
~という和歌は、有馬皇子が兄である中大兄皇子のいる記の湯(今の和歌山県、白浜温泉)に
尋問を受けるために連行されていく途中で詠まれた歌です。
幸いにもまたこの道を帰ることがあればこの枝を見たいものだ、と枝を結ぶ自分を詠んだ歌
とされていて読むものの涙を誘います。
ところが尋問は口実で兄は途中の藤白坂で弟を絞首刑に処させています。
皇子は19歳の若さでした。
だけど兄からしたら、この弟の存在自体が彼が統治する国家社会への直接的な不安定要素です。
存在することが中大兄皇子の動物本能を四六時中刺すのです。
かくして耐えられなくなり、自然に浮上する獣性にかれは身を任せることになるのです。
戦国時代には豊臣秀吉が同じく謀反の嫌疑で甥の豊臣秀次を殺しています。
彼などは後継者として猫可愛がりして秀吉は育ててきた。
なのに実子秀頼が生まれると突然不安分子として手を翻すかのごとくに殺しています。
徳川時代には謀反の嫌疑で由井正雪が謀殺されているし、
明治期にも幸徳秋水ら社会主義者がなんと明治天皇暗殺容疑とのことで処刑されている。
これはまだ百年前のことで大逆事件と称されています。
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