ジュゴン保護キャンペーンセンターとWWFジャパンの主催によるセミナー『ジュゴンと共に生きる国々から学ぶ』が開かれた(2009/2/19、港区立勤労福祉会館)。なかなか範囲を広く設定したこのような会がないので、大事な機会である。
資料と一緒に、ジュゴンの折り紙も配られた
照屋三線クラブが、「芭蕉布」と「国頭ジントーヨー」を演奏した
■花輪伸一さん(WWFジャパン) ジュゴンのためのIUCN決議と国連の2010年国際生物多様性年
まず、WWFの花輪さんから、ジュゴン保護を巡る最近の国際的な動向についての概要説明があった。
○1996年の普天間基地移設発表の頃、大浦湾でジュゴンが目撃されたことが沖縄の2紙で報道され、注目された。
○2010年は国際生物多様性年であり重要な区切りだ。
○日本政府はボン条約(CMS:移動性野生動物の種の保全に関する条約)に加盟していない。またボン条約には、ジュゴン保護に関する覚書が含まれている。鯨が移動性生物に含まれるため日本政府は消極的だが、覚書だけでも参加できる。日本はぜひ署名してほしい。
○やはり2010年には、生物多様性条約の締約国会議COP10が名古屋で開かれる。なお。生物多様性条約に米国はまだ加盟していない。生物多様性は人間にとって重要な資源であるばかりでなく、心の拠り所にもなっている。
○IUCN(世界自然保護会議)において、日本のジュゴン保護は3回の勧告・決議を受けた(2000、2004、2008年)。通常は1回であり極めて異例のこと。1、2回目は他国に行動を働きかける勧告だが、3回目はIUCN自らが解決したい意味での決議。
○2010年国際生物多様性年に向けて、日本政府にはボン条約ジュゴン覚書に署名してもらい、ジュゴン保護政策の一環として、辺野古・大浦湾・嘉陽海域に保護区を設定してほしい。
■吉田正人さん(日本自然保護協会) 2010年国際生物多様性年について
次に、ボン条約などの話を補足するという意味で、吉田さんが他の法規制について解説した。
○ジュゴンに関しては、生物種と生育地の2つが重要であり、種だけ水族館で保護するなどの対策は駄目だ。
○ジュゴンは『レッドデータブック』において絶滅危惧種として扱われており、日本では50頭以下だとされている。ただ、同じ個体がよくあらわれることからも、50頭を相当下回るはずであり、保護に向けて猶予がない。
○日本の「種の保存法」では、政令指定種として対象を指定するが(たとえばイリオモテヤマネコ)、ジュゴンは含まれていない。これは成立時、環境省と農水省とが、水産生物を対象にしないという密約を結んだからである(縦割り、鯨が指定されると困る、などの理由か)。谷津農林水産大臣の時代に、ジュゴンを対象としてよいことになったが、5年以上経っても指定されないままだ。これには基地や漁業などの問題が背景にあるのだろう。
○一方、米国の「絶滅危惧種法」にはジュゴンが対象として含まれている。これは、パラオが米国の信託統治下にあるときに対象となったという経緯がある。これを用いて基地建設回避を迫ると、ブッシュ政権下では、法律自体が変えられてしまうおそれもあった。
○日本の「自然公園法」は陸域が中心だが、やんばるを自然保護区域にしようという動きが環境省にある。ひいては世界遺産にしたい。
○日本の「自然環境保全法」においても陸域が中心であり、海域は西表島の崎山湾が指定されているのみ。これを適用できる可能性は低い。
○日本の「鳥獣保護法」。国、県のどちらが指定するのかという問題もある。
○ボン条約の加盟国は現在110カ国。日本はまだ。
■カンジャナ・アデュルヤヌコスルさん(タイ・プーケット海洋生物学センター) ジュゴン保護覚書~動き始めた10カ国
ジュゴン覚書の実現に貢献したカンジャナさんが、研究の成果や保護の状況を説明した。
○ジュゴンは、オーストラリア、東南アジア、沖縄、インド、中東、アフリカ東岸など48カ国にわたって広く生息する。 もっとも多いのはオーストラリア(8万頭)、ついでUAE(5千頭)。沖縄は20-50頭。
○海草や藻場などの餌場に分布する一方、500kmなど長距離の移動も行う。ほとんど10mより浅いところにいるが、長距離移動時には30mまで潜ることもある。
○ジュゴンが被害に遭う原因として、刺し網、罠、ボートとの衝突、サメの攻撃などがあげられる。満潮時の朝方、浅瀬に来て海草を食べる。この時間帯の漁業に留意することが重要。
○タイ・トラン(Trang)県では、2005年にジュゴンの保護区を設定した。政府と漁民にいろいろ問題がありあまり成功していないが、政府は今後も推進する。
○なぜ生物が移動するかといえば、四季に伴って食べ物や気候、光などが変化するからだ。しかし、移動性生物はそうでない生物に比べ、人間活動に起因する圧力の影響を受けやすい。
○ジュゴンの生育地としては、現在のところ餌場のみ理解されている。しかし移動するものであり、餌場だけの保護では不充分。人工衛星などを使った行動範囲の研究(複数国での共同研究)が必要となる。
○インドネシアのココス島のラグーンには、1000km移動してきたジュゴンが4年棲んでいる。沖縄のジュゴンも、タイやフィリピンから来た可能性だってある。
○ジュゴン覚書はタイ、オーストラリアの両政府が中心となってつくった。その前に、イラワジいるかをボン条約の中で取り扱った先例があった。現在12カ国が署名している。タイが未署名なのは政治のごたごたのせい。
○ジュゴン覚書の会合(2008年、バリ)では、さまざまな問題が扱われた。オーストラリアとパプアニューギニアとの間のトレス海峡において、どの程度までなら捕獲して問題ないかという検討もされた。もともとオーストラリアの原住民などがジュゴンを食料にしてきた文化がある。
○ジュゴン覚書に法的拘束力はない。しかしさまざまな有効な力がある。途上国にとっては資金のインセンティブにもなる。
沖縄・泡瀬干潟の保護に取り組んでいる水野さんより、おもしろい質問があった。「数年前、泡瀬にもジュゴンが来たかもしれない証拠として、糞の写真が残されている。いまは埋め立てているから来ないだろうが、写真を見て判断できるか?」
カンジャナさんの答えは次のようなものだった。「ジュゴンとウミガメの可能性があるのではないか。ただ糞はずいぶん異なる。ウミガメはすぐに食べたものを出すし噛まないが、ジュゴンは出すまで6日くらいかかるので、糞を触ったときに細かく崩れる。それにジュゴンの糞は信じられないくらい臭い(笑)。今度来たときに確認できるだろう。」
海勢頭豊さんによるまとめの挨拶