サックスもトランペットも吹く異才ジョー・マクフィーが、ドミニク・デュヴァル(ベース)、ジェイ・ローゼン(ドラムス)と組んだ「トリオX」の映像がDVD『The Train & the River: A Musical Odyssey』(CIMP、2007年)として出ている。私はebayでPALフォーマットのものを入手したが、ジャケット裏にはNTSCと両方書いてあって、ペンでNTSCの方が塗りつぶされているので、ひょっとしたら両方あるのかもしれない。番号がCIMPVIEW 10001だから、おそらくCIMPレーベルの出した最初のDVDだろう。
ライヴ映像を期待していたのだが、実際には半分くらいはマクフィーがぺらぺら喋っている。ただ、人によっては何を言っているかわかりにくい英語も(フレッド・アンダーソンとかヴォン・フリーマンとか・・・)、マクフィーのはわかりやすい。それに「ストーリーテラー」だと自ら言うように、語りの内容はとても面白いものだった。
「My Funny Valentine」の演奏からはじまる。ここで、トリオの3人が、それぞれ列車や河の記憶を語り、人生、音楽に結び付けてみたりする。ローゼンがライン川の美しさを語り、デュヴァルが旅をスクラップブックに例えてみはするものの、多分、このテーマはマクフィーの主導だろうと思える。少年時代に先生に引率されて見た列車のエンジンのこと。旅は音楽と同じように明確なはじまりと終わりがないこと。河は創造の源であること。そういった想像を、ジミー・ジェフリーに会って思い切って話してみたこと。なるほど、本人の自負する通りの「ストーリーテラー」で、「ロマンチスト」だ。
演奏はオーネット・コールマンの「Lonely Woman」になる。オーネット・コールマンがデイヴィッド・アイゼンソン、チャールズ・モフェットとのトリオで演奏旅行に出る記録フィルムがあるが、それを意識したのだろうか。同じように石畳の道(リトアニアのヴィリニュスらしい)を3人で歩くのである。オーネットの時代と異なるのは、3人ともデジカメを持ってあちこちを撮影しまくっていることだ。自分たちのライヴを宣伝するポスターも楽しそうに撮っている。そして、影響を受けた音楽家たちについて話し続ける。
ジャズとの最初の大きな出会いは、マイルズ・デイヴィス『Bag's Groove』であり、それでトランペットを始めたのだという。それからオーネット・コールマンの初期の諸作、アンソニー・ブラクストン『For Alto』。肉声の拡張という意味でのテナーサックスとして、ジョン・コルトレーン、アルバート・アイラー。パブロ・カザルスのバッハ独奏。
マクフィーは即興音楽についての捉え方にもうるさい。「アヴァンギャルド」ってスタイルの呼び名だろ?「フリー・ミュージック」って、意味がわからないだろう?というように。「フリーダム」から連想はマックス・ローチに至り、与太話は「まあ、『Tomorrow is the Question』だな(オーネット・コールマンの初期作品)」とまとめて3人でげらげら笑っている。
前後して、「God Bless the Child」も演奏している(ああ、ビリー・ホリデイの死後50年が経とうとしている!)。どの演奏でも、ベースもドラムスもリズムを刻むなどということはなく、自在な表現をしている。小さいホールでの演奏で、これを聴けたら嬉しいだろう。本人は、カーネギー・ホールで演奏することはまず無いし、メジャー・レーベルからCDが出てオカネを一杯稼ぐということも無い、などと語っているが、こちらにとってはウィントン・マルサリスの音楽などより何倍も魅力があるというものだ。