インターネット新聞JanJanに、滝川薫『サステイナブル・スイス』(学芸出版社、2009年)の書評を寄稿した。
日本政府は2009年6月、温室効果ガスの排出削減に関する中期目標を公表した。2020年に05年比マイナス15%、90年比で言えばマイナス8%に相当する。もともとの裏付けとなる試算においては、これは「フロー対策」を充分に実施するとした場合の水準に近いものだった。新しく作られるモノの省エネ性能をかなり良いものとする方法である。
一方、さらに削減を行うためには、「フロー対策」に追加して、「ストック対策」が必要とされている。すなわち、日々エネルギーを消費しているのは、新しいモノよりむしろ古いモノ=「ストック」であるから、「ストック」を省エネタイプに入れ替えることが効果的となる。
しかし、それは容易なことではない。まだまだ使えるのに、燃費のさほど良くない自動車を買い替えたり、省エネ性能の劣る家電製品を新しいものにしたり、といった行動には、先立つものが必要である。さらに省エネ効果が大きいのは住宅の断熱性能向上だが、やはり簡単にできることではない。わが家でも、リビングの窓ガラスをすべて断熱性能の高いペアガラスにしようと考えたことがあるが、想定外の高さに断念した。
本書には、そういった視点でのエコ住宅普及の成功例を見ることができる。「ミネルギー」と名付けられた省エネ性、快適性の高い住宅は、新築であればエネルギー費の節約などにより7年間で元が取れる上に、補助金などが得られる。また改修であっても、費用の補助や税控除などが受けられる仕組となっている。さらには、古い住宅をエコ住宅に生まれ変わらせることにより、資産価値が上がるという考え方が注目すべきものに思われる。もちろん日本にも様々な補助制度はある。
しかし水準が充分でないうえ、「誰も知らずばらばらに存在する」ものであり、本書で示されているような、コンセプト性(少なくともライフスタイルを改善するという前向きな印象を持つことができる)、パッケージ性については学ぶところが大きいだろう。
本書で示されているのはエコ住宅だけではない。ひとつひとつの規模が小さな太陽光発電をいかに進めてもらうか、マイカー文化から利便性の高い公共交通文化にいかに変身していくか。そして歩行者、自転車と自動車とが共存する街づくりなど、私たちの社会にとってとても重要な課題に関して、「見える形」での具体的な政策が紹介されている。
読み手にとっての「スイス」は、「何だか環境にやさしいことをしている向こうの国」であるべきではない。その意味では、ヨーロッパ至上主義であってはならない。あくまでも、私たちの社会を良くするために注目すべき、同じような課題に取り組んでいる仲間だと考えるべきだろう。