割と入口が広めのギャラリー「莫干山99工作室」では、蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)による書の展示がなされていた。一見、何だこれはというごりっとした違和感に襲われる。テーブルには日本語のチラシもあり、どうやら今年4月に青山で個展を行ったばかりのようだ。
日本語チラシの一部
書でありながら、葡萄のようで、藤棚から垂れる藤のようで、また窓に付いた雨露のようだ。しかも、「Buddist Monk」というシリーズでは、一筆書のような背中を向けた仏僧が真ん中下にあまりにも場違いに描かれている。もの凄い求心力なのだ。素晴らしい作品に出会うと、眼が悦び、心臓が跳ねるような気持ちになるが、まさにそれだった。
行きつ戻りつして何度も観ていると、書家または画家である蔡玉龍氏がニコニコしながら出てきて、感想を求められた(多分)。こちらは中国語が話せないし向こうは英語が話せない。秘書の女性を介して、お茶を飲みながら英語で話をした。
藤を思わせるねと印象を述べたところ、実は一連の作品は、日常的に眼にしていたヘチマ(同じつる性の植物)からインスピレーションを得たのだとはね返ってきた。これらは「狂草」というスタイルを受け継いでいると自認しており、王義之の模倣から脱却した唐時代の奔放な書家の流れにある。氏はもともと画家であり、この書も中国人であっても読めるようなものではないという。唐時代のさまざまな書も見せてもらった。
突然ちょっと待っていてくれと姿を消したと思ったら、しばらくして、作品集に筆で署名をして贈ってくれた。話し続けながらそれを観ていると、ジャクソン・ポロックを思わせる作風の作品も掲載されている。確かにさっき、自分は「表現主義」なのだと言っていた。ただポロックの名前を出すと(中国語ではポにアクセントを置いて「ポロクー」と呼ぶように思った)、確かに自分もドリッピングの手法を使ってはいるが、あれはアメリカ人だから違う、とのことだった。
凄い存在を見つけてしまった気分だ。
作品集「狂草九潤」
藤のような書
「Buddist Monk」シリーズの絵柄に近い
ドリッピングによる作品
書をいただいた