Sightsong

自縄自縛日記

70年代のキース・ジャレットの映像

2009-07-21 07:20:00 | アヴァンギャルド・ジャズ

以前は随分とキース・ジャレットが好きで、来日時のコンサートも、1993年の雨のよみうりランド、1996年のオーチャードホール、1999年の上野文化会館に駆けつけた。では今はどうかと言うと、ほとんど聴いていない。理由をひとことで言えば、マンネリの「スタンダーズ・トリオ」に魅力を感じなくなったということに尽きる。それでも、トリオ最初期の『スタンダーズ・ライヴ』(ECM、1985年)はいまだ素晴らしいと思っている。それ以降のアルバムでは、絢爛豪華で跳ねるようなピアノが次第に無くなり、シンプルなものになっていった。ほとんどのスタンダーズ・トリオのアルバムを手放すにあたって、これらが無くても生きていくうえで何にも困らないと思った。・・・・・・もっとも、以上の話は趣味の領域だし、そもそも自分だってああ良いなと思って聴いていたのではあるが。

スタンダーズ・トリオの前は、ソロの他にはアメリカン・カルテット、ヨーロピアン・カルテットが目立った活動である。実はこのあたり、特にデューイ・レッドマンを迎えたアメリカン・カルテットの諸作はいまだに偏愛している。聴きながら、次に何が出てくるのか予測できないこと自体を体感する、豪華絢爛でファンタスティックなピアノ。手で汲めども汲めども指の間から零れてしまうような、過剰な叙情性が素晴らしいと思う。

2つのカルテットの活動は70年代で、この時期の映像をふたつ持っている。

ひとつは、1972年、ハンブルグでのスタジオ・ライヴ『Hamburg '72』だ(プライベート版)。カルテットではなく、チャーリー・ヘイデン(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)とのトリオであり、当たり前だがみんな若い。ビル・エヴァンスや菊地雅章とのトリオが印象深いモチアンのドラミングは「伸び縮み」するようで、楽しそうに叩く姿が印象深い。いまではスキンヘッドにサングラス、ちょっと怖くて青山のボディ&ソウルでも声をかけられなかった(笑)。昔の記録で音が悪く、ベースの録音がいまひとつだが、「Song for Che」などでソロになったときのヘイデンの存在感は凄い。そしてキースははしゃぎまくり、タンバリンを叩き、ソプラノサックスを吹く。不世出の天才という表現そのものだ。ピアノはフォーク的でブルージー。

もうひとつは最近中古の『The Frankfurt Concert』を入手した(プライベート版)。1976年、ヨーロピアン・カルテットによるフランクフルトでのコンサートである。もちろんヤン・ガルバレク(サックス)、パレ・ダニエルソン(ベース)、ヨン・クリステンセン(ドラムス)すべて映像で観ることができるのが嬉しい存在ばかりなのだが、やはりキースの存在感が他を圧倒している。最初のピアノソロからして眼と耳が釘付けになる。雰囲気は、アメリカン・カルテットのピアノと共通するような過剰なる叙情性。

あとはアメリカン・カルテットの映像を観てみたいのだが、無いのだろうか。デューイ・レッドマンは息子のジョシュアより何万倍も野太く味のあるテナー吹きだと思っている(もっとも、最近のジョシュアを聴いていない)。彼の動く姿といえば、シャーリー・スコットが撮ったオーネット・コールマンの映画『Made in America』でしか観たことがない。そして実際に目の当りにする前に、残念なことに!、亡くなってしまった。