愛しのサックス吹き、アーチー・シェップの映像作品『I am Jazz ... It's My Life』(Frank Cassenti、1984年)は随分前から何度も観ている。もちろんVHSだが、たしかDVDでも再発されていたはずだ。ちょっと前の『Imagine the Sound』(1981年)にもシェップの姿がある。願わくば、70年代初頭までのインパルス時代の映像も観てみたいところだが、あるのだろうか。
冒頭からふるっている。監督は、ジャズフェスでサン・ラをつかまえようとするが居場所知れず。そこにシェップが現われ、「ジョン・カサヴェテスの登場人物のように走り寄った」。シェップは、ドン・チェリー、フィリー・ジョー・ジョーンズらとともに、サン・ラの率いる豪華バンドの一員として参加していたのだ(何それ?)。シェップは映画化をその場で快諾する。
こうなるとシェップの思い入れが溢れ出す。アフリカをルーツとして、ジャズは米国で産まれたんだよ。チャーリー・パーカーは私のバッハだし、コルトレーンはベートーヴェンだ。エリントンが現われ、フレッチャー・ヘンダーソンも・・・。そう言いながら、悪乗りというか、パーカーと呟きながら、パーカーのオリジナル曲「Billie's Bounce」を、テナーで小気味良くジャンプするパーカー・フレーズで吹きまくる。しかしどうしてもシェップのサウンドになっているのは面白い。
黒人であることや政治への意識も幾度となく吐露する。車の中では、アルチュール・ランボオの『地獄の季節』を口ずさんだりもする。そこで仰天する話。シェップの曲「Mama Rose」は、ジェームズ・ブラウンの「Papa Don't Have a Brand New Bag」からインスパイアされて生まれたのだ。自分を含め、あまり歓迎されているとは言えないだろうヴォーカルは、ブラウンのことも意識しているのだろうか?
テナーサックスによる「In a Sentimental Mood」「Billie's Bounce」、ソプラノサックスとヴォーカルによる「Mama Rose」など演奏は長く収録されている。また、ウィルバー・リトルのベースを聴けることも嬉しいところだ。
サックスを吹くシェップのアンブシュアを見ていると、口まわりを緊張させるクラシックのそれとは対極にある。息継ぎせず吹き続ける循環呼吸奏法のときは仕方ないとして、そうでなくても、ぶほぶほと動いて非常にゆるい。10年前にシェップの真下で演奏を観たとき、それどころか、涎がたれまくり(!)、私の上にほとんど雨あられであったことを思い出す。あの独特な音の秘密はいかに。
●参照 イマジン・ザ・サウンド