ラシッド・アリが亡くなった。2009年8月12日、心臓発作、79歳。
ジョン・コルトレーンがエルヴィン・ジョーンズの後に組んだドラマーである。エルヴィン・ジョーンズが斧を自由自在に使う達人だとすれば、ラシッド・アリは爆竹がばりばり鳴る龍のようで、絡みつくイメージを強烈に喚起させる。コルトレーンのテナーの音が苦手な私も、アリやアリス・コルトレーンが加わった後期のグループには参ってしまう。そして一番のコルトレーン偏愛盤は、アリとのデュオ・アルバム、『Interstellar Space』(Impulse、1967年)なのだ。
ここでのコルトレーンは、<楽器>と<肉体>の化物と化している。ウルトラレベルの演奏技術を最初から最後まで駆使し続け、気持ちは切れそうで切れない、限界そのものだ。アリもまとわり付き絡みつくだけでなく、時折はコルトレーンの頭上で咆える。
この5年後、フランク・ロウのテナーサックスとのデュオ『Duo Exchange』(Knit Classics Records、1972年)を吹き込んでいる。ロウのサックス技術は、コルトレーンに遠く及ばない。塩辛く、マッチョになりきれず、テンポは転ぶような独自な印象。しかし私が好きなのはロウの人間臭さなのだ。互いのソロの後に乱入するプロセスには興奮する。
このライナーノートに、コルトレーンによるアリ評がある。
「彼が演奏するやり方により、ソロイストは最大の自由を得る。どんな時も、彼がやっていることと共存するだろうとの自信を持って、どんな方向も選ぶことができる。彼はいつでも、多方向のリズムを繰り出しているんだ。」
仕方がないとは言え、ジャズの偉大な音楽家が毎年次々に亡くなっていくのは悲しい。「ニューヨーク・タイムス」の追悼記事(>> リンク)によると、ソニー・フォーチュンとのデュオもやっていたようだ。