藤井省三『現代中国文化探検―四つの都市の物語―』(岩波新書、1999年)は、中国の東側に位置する4都市、北京、上海、香港、台北それぞれを取り上げて、都市の成り立ちと世俗史を描いている。
もう10年前の本であり、「現代世俗」のエッセイとしてはいかにも古い。それは仕方がないこととしても、都市の成長を第一に評価する視線が大変気になるところだ。日清戦争後の日本による台湾支配を、都市成長、経済成長の原動力として正当化しているようにも感じられるのである。躊躇せずに、台北を中国の都市に含めてしまうことも同根のものではないか。
それは置いておくとして、興味深い指摘がいくつもあった。
北京の四合院は、紫禁城とならぶもうひとつの城中城であり、小さな共同体の群れであったということ。魯迅の家に住み、日本では中村彝が肖像画を描いた詩人エロシェンコは、「僕の北京は小さい静かな北京」と語っていた。
30年代上海の夜を牛耳った秘密結社・青幇(チンパン)は、欧米に支配された租界を、夜奪い返すナショナリズムでもあった。著者によれば、当時の上海を描いた映画のことごとくが、ノスタルジックな「冒険者たちの楽園」イメージにとどまっているという。
香港と台北には足を運んだことがない。そのためか、読んでいてもあまり共感できない。それでも、エドワード・ヤンを観たいという気持ちは強くなってくる。もう少し後に書かれていたら、映画評の対象にジョニー・トーも入っていたことだろう。
●参照
○伴野朗『上海伝説』、『中国歴史散歩』
○竹内実『中国という世界』
○魯迅の家(1) 北京魯迅博物館
●中国の古いまち
○北京の散歩(1)
○北京の散歩(2)
○北京の散歩(3) 春雨胡同から外交部街へ
○牛街の散歩
○上海の夜と朝
○上海、77mm
○盧溝橋
○平遥
○寧波の湖畔の村