Sightsong

自縄自縛日記

『情況』の、「現代中国論」特集

2009-10-29 23:44:54 | 中国・台湾

『情況』(2009年10月号、情況出版)が、「現代中国論―建国六〇周年」と題した特集を組んでいる。

目当ては加々美光行によるウルムチ事件に関する論文である。それによれば、2009年7月に起きたウイグル族と漢族との衝突は、従来のそれとは性質を異にしているのだという。このあたりは、中国を一枚岩のように語る言説とははっきりと一線を画しており、とても興味深い。

●従来の新疆の独立運動は、イスラム信仰と必ずしも結びついていなかった(世界ウイグル会議主席のラビア・カーディルもカリスマではない)。
●国家発展改革委員会による「西部大開発」プロジェクト(2000年~)や、上海から新疆を抜けてドイツまで光ファイバーを敷く「ユーラシア・ランド・ブリッジ計画」(1992年~)などインフラ事業が本格化している。ウルムチには出稼ぎ労働者が流入し、中国沿岸部の資本側が使いやすい漢人が優先された結果、あぶれたウイグル人はあちこちに出稼ぎに出ることとなった。広東の事件に新疆のウイグル人たちが反応したのは、そのようにつながった同胞意識があったからだ。
●今回のデモは、独立運動関連ではなく、漢人とウイグル人との貧富格差に起因する。その背景には、政府の開発至上主義により、地方の従属化が進んだことがある(地元ではなく外部が開発の主体になる)。
●開発の肥大化は、地方政府の権限の膨張にもつながっている。河北省の毒入りギョーザ事件において、原因は日本側だと公言したのは、地方政府の独走だった。
●一部の独立運動だけでなく、一般民衆を巻き込んだ民族解放運動につながっていく可能性は高まっている。これまでカリスマ不在で盛り上がらなかった東トルキスタン独立運動にも結びつく兆候もある。胡錦涛がラクイラから慌てて帰ったのは異例のことであり、危機感を募らせていることのあらわれである。
●「中華ナショナリズム」は、孫文たちの生み出した「中華民族」の概念に起因している。本来は国境も宗教も民族も跨り、さまざまな要素を丸呑みする普遍的な色彩が強いものであった。90年代から排他性を強め、自己を尊大視する「中華ナショナリズム」は崩壊の危機を迎えている。

城山英巳の論文では、ネットやNGO、弁護士のつながりなどによる民衆の民主化意識の高まりの事例をいくつも挙げている。「民」の不満を表す指標として、所得格差の度合いを示す「ジニ指数」があり、既に中国では警戒ラインを超えているとしている。

ポスト胡については、2人の名前が挙げられていた(城山英巳、小島弘)。

習近平: 「太子党」(高級幹部子弟グループ)、国家副主席、党中央書記局常務書記 
李源潮: 党組織部長、前江蘇省総書記

●『情況』
新自由主義特集(2008年1/2月号)
ハーヴェイ特集(2008年7月号)
沖縄5・18シンポジウム『来るべき<自己決定権>のために』特集( 〃 )
尹健次『思想体験の交錯』特集(2008年12月号)

●加々美光行
加々美光行『現代中国の黎明』 天安門事件前後の胡耀邦、趙紫陽、鄧小平、劉暁波
加々美光行『中国の民族問題』