流行から随分遅れて、横山秀夫『クライマーズ・ハイ』(2003年、文春文庫)を読む。1985年8月、御巣鷹山に日航機が墜落する。小説は、群馬県の地方紙による取材を描いており、これは作者の横山秀夫の実体験を基にしている。
それまで群馬で事件といえば、「大久保連赤」(大久保事件と連合赤軍あさま山荘事件)であったという。それらを手柄話のようにしていた古参記者たちには、 突然の日航機墜落により、嫉妬にも似た気分が生まれた。そして中曽根による靖国参拝が大きなニュースとなっており、福田・中曽根の勢力争い(新聞社の中にも「福中」のつばぜり合いがあったという)とも絡めて描かれる。
すべて24年前の古い話である。私は中学生だった。坂本九が亡くなったことに衝撃を受けた記憶がある。小説の中に、《農大二、宇部商に惜敗》という記事が登場してハッとする。桑田・清原を擁するPL学園と宇部商とが決勝で対決した夏でもあった。
迫真感があり1日で読んでしまった。ただ、喧嘩早く、体育会のような新聞記者たちの描写にはうんざりさせられる。個性的な記者たちを描くものなら、丸谷才一『女ざかり』(1993年)の方が遥かに大人だ。
ついでに、録画しておいた映画、原田眞人『クライマーズ・ハイ』(2008年)を観る。この長いディテール小説をよくまとめたものだ、というのが第一印象。堤真一も田口トモロヲも山崎努も、良い俳優である。しかし、無理に複数のエピソードを詰め込んでいるため、小声でごにょごにょと言う大事な部分がわかりにくい(映画だけを観るひとには尚更だろう)。大勢の命と1人の命を比較するため、初めて御巣鷹山で死体を見てショックを受ける若い記者を交通事故死させることにも納得できない。横山秀夫の小説では、この経験から良い記者に育っていくことが語られているし、無理に死なせてしまっては哀れではないか。