Sightsong

自縄自縛日記

堀田善衛『インドで考えたこと』

2009-10-27 23:59:08 | 南アジア

今日、所用でインドに、ではなく、福岡に行ってきた。飛行機内の友は、堀田善衛『インドで考えたこと』(岩波新書、1957年)に決めた。私がインドに行ったのは4年ほど前、ただ強烈な印象は決して消えない。

それにしても1957年、初版から50年以上が経っている。インドで開催された文学者の会議に出席することになった堀田善衛は、あるインド人に、「われわれは貧しい。しかし五十年後には―――」と云われ、考え込んでしまう。

「五十年後の日本―――私はそんなものを考えたこともないし、五十年後の日本について現在生きているわれわれに責任があるなどと、それほど痛切な思いで考えたこともない。われわれは日本の未来についての理想を失ったのであろうか。一般に、長い未来についての理想をもたぬものは、それをもつものの未来像のなかに編入されて行くのが、ことの自然というものではなかろうか。何かぎょッとさせられる。」

もちろん堀田に責任はない。しかし実際にその50年後が何事もなかったように過ぎてしまい、日本は理想も未来もあるかないかわからないままであり、発展著しいとはいえ貧しいインドはまだ存在する。依然、常にぎょッとさせられ続けているわけである。

堀田の見たインドは、ひとりひとりの自己主張が猛烈に強く、純粋とは対極にあるような矛盾したものが同時に存在し、直接に歴史や宗教や神話を取り込む姿であった。非論理的で滅茶苦茶でありつつも、それらを体感したあとで見る日本は、いかにも空疎であった。堀田の頭の中には、夏目漱石が日本の開化を「外発的」かつ「皮相的」であるとした指摘がこだましていた。

「そしてこれは、単に政治だけでなく、より根本的には近代日本人の心性そのものが、こんな工合に表裏反対のものをもち、従って根本的な問題はつねにこの二重性の谷間につきおとされて、ウヤムヤになってしまう、ウヤムヤにしてしまう。つまりウヤムヤのうちに時間がたち時代と流行のようなものが変れば、それで済んだような気になる―――こういう心性、こういう時間と歴史のおくり方をわれわれはどこから得て来たのか。」

だからと言って、「ぶれる」ことがなく、強面で、強靭な哲学らしきものを持つようなリーダーを求めるのが間違いだということは明らかなのであって、私などは、それは個人の裡に抱え込まなければならないと信じるのだがどうか。

書かれて50年以上が経ち、相当にその時間を感じさせる部分もある。しかし、もっともらしい「文明批評」などでも、一時期流行ったような浅い「日本特殊論」でもないことは確かだ。ユーモアが溢れる思索的な書である。今まで縁のなかった堀田善衛というひとがちょっと好きになってしまった。


押しつけられた常識を覆す

2009-10-27 00:38:41 | 沖縄

沖縄で2008年に開催されたシンポジウム、「押しつけられた常識を覆す」(「いまこそ発想の転換を!」実行委員会)における議論を記録したブックレットを読んだ。「経済の視点から」(2008/5/31)、「つくられた依存経済」(2008/10/19)の2回分である。(なお、高文研からも単行本として出ている。)

何が押し付けられているかと言えば、「米軍基地がないと沖縄経済が成り立たなくなる」という「常識」だ。実際にそのような声は多い、と言うべきか、あるいはメディアにおいて典型的な「声」として常に採用されている、と言うべきか。生活者の意思に反してそのような状況に追い込んでおいてオルタナティヴズを滅却しているのだという発言、あるいは、生活者への恫喝ではないかという発言は、圧倒的に少ないのだろう。

仮に将来基地が去ったとして、その跡地利用と新たな経済社会のシナリオを描きだすことが今後望まれるとすれば、これらの議論はまだその地点まで到達してはいない。しかしそれは問題ではない。悪意のある石を脇にどけるための議論なのだろうと思う。

いくつか、指摘を拾ってみる。(敬称略)

●基地収入は沖縄県GDPの5%に過ぎない。一方、政府から沖縄への資本移転(経済振興費など)がGDPの14%を占めている。つまり、基地経済が足を引っ張っている。(平恒次)
●「基地依存度」(定義がよくわからないが、収入全体に占める割合か)は、25-27%(1955年)、17%(1964年)、「ベトナム・ブーム」で回復して20%(1966-67年)、10%未満(復帰時)、5%程度(現在)と減り続けている。(来間泰男)
●公共投資には必要なものもあった。このベネフィットを評価せずに独立を論じるのは空論である。(来間泰男)
●基地収入は、米軍の戦闘機能を維持するための「基地維持コスト」と捉えるべきであり、その場合、安価な基地を可能にしてきたと評価するべきである(金額として少なすぎる)。またそれはただのコストであり、経済発展の動因にはなりえない。(大城肇)
●国が発注した公共工事を分析すると、半分前後が県外企業への発注である。すなわち「ザル経済」であり、県内の経済波及効果が小さい。(宮田裕)
●基地所在市町村は、基地のない市町村に比べ、失業率が高い傾向がある。(前泊博盛)
●多額の基地振興策が投入された名護市では、市債残高の増加(振興策をこなすために借金を重ねた)、失業率の増加、法人税の減少などでむしろ基地依存度が高まった。(前泊博盛)
●補助金・交付金、公共事業目当てで基地を受け入れる仕組は、恒久的に続く保証はどこにもなく、今後削減されると、沖縄の自治は支えを失い崩壊しかねない。(佐藤学)