カマル・タブリーズィーの新旧2作品、『テヘラン悪ガキ日記』(1998年)と『風の絨毯』(2002年)、それから、マジッド・マジディ『運動靴と赤い金魚』(1997年)を観る。
■『テヘラン悪ガキ日記』
ストリートチルドレンのメヘディは母親を早くに亡くし、親戚に邪険に扱われて盗みを働いた揚句、少年院に入れられている。母親が死んだというのはウソで、本当の母親がどこかにいるという妄想を抱いている。その理想像(彼にとっての現実)は、新聞の切り抜き写真であり、それにそっくりな女性が指導係として現れた途端、母親が来たと思い込む。メヘディは少年院を脱走し、女性とその娘(メヘディにとっては妹)につきまとう。女性は夫をメヘディのようなストリートチルドレンに殺されたという過去を持っていた。
イランの当時の社会問題が織り込まれているが、演出に工夫ひとつなく、映画的な空気を感じることはできない。また、少年メヘディは愛嬌があるものの、異常な妄想癖があるがために、感情移入することが難しい。何か悲惨な出来事が待ち構えているのではないだろうかとハラハラし、早く解決してほしいと権力者のような視線で観てしまうのだ。
■『風の絨毯』
日本とイランとの共同制作。事故で亡くなった妻(工藤夕貴)が作ろうとしていたペルシャ絨毯をイランの工房に発注した夫と娘は、それを受け取りにイスファハンまで赴く。しかし、発注ミスでまだ少しも出来ていなかった。決裂寸前、馬車曳きの少年のアイデアで、わずか2週間での制作に入ることになる。
三國連太郎や工藤夕貴の演技が良いが、彼らはすぐに画面から姿を消す。やがて、母を亡くした少女がイラン社会で心を開いていく話に収斂していくのだが、この演出がやはり平板的で、評価すべきところがない。タブリーズィーの最新作は、アースマラソンを行う間寛平を主役にした『ランアンドラン』(2010年、一般未公開)だが、ちょっと期待できないかもしれない。
■『運動靴と赤い金魚』
少年アリは妹ザーラの靴を亡くしてしまう。怖い父親にも病気の母親にも言えない。当分、学校には兄妹で一足の運動靴を共有して通う。恥ずかしい、お父さんに言いつけるからねとべそをかくザーラ。綺麗なペンをザーラにあげたりして、何とか誤魔化したいアリ。そんなとき、マラソン大会の3等の商品に運動靴が出ることを知ったアリは、先生に泣きついて出場させてもらう。毎日運動靴を取り変えるために急いで走った甲斐あって、1等でゴールしてしまう。涙目のアリ。
タブリーズィーの駄目な演出を観た後だけに、マジディの子どもの描き方や、まさに「ランアンドラン」の工夫が秀逸に感じられる。他の子どもたちの靴ばかりを見つめるザーラの視線や、拾った靴を履いていた少女の家が貧しいと知るや言い出せなくなる兄妹の表情がたまらなく良い。一心不乱に走りすぎて3等になれなかったアリは俯き、ザーラもがっかりしてしまい、家の池に入れたアリの裸足には赤い金魚が寄っていく、これは涼やかで詩的だ。他のマジディ作品も観たいところだ。
レンタル落ちVHSはもはや100円
●参照 イラン映画
○バフマン・ゴバディ(1) 『酔っぱらった馬の時間』
○バフマン・ゴバディ(2) 『ペルシャ猫を誰も知らない』
○バフマン・ゴバディ(3) 『半月』
○バフマン・ゴバディ(4) 『亀も空を飛ぶ』
○ジャファール・パナヒ『白い風船』
○アッバス・キアロスタミ『トラベラー』
○アッバス・キアロスタミ『桜桃の味』