Sightsong

自縄自縛日記

辻真先『沖縄軽便鉄道は死せず』

2010-08-12 23:37:16 | 沖縄

ケービンこと軽便は、沖縄戦で姿を消した鉄道である。辻真先『沖縄軽便鉄道は死せず』(徳間書店、2005年)は、その最後の姿をサスペンスの形で描き出している。そのうちに読みたいと思っていたが、高円寺の球陽書房(沖縄関連書が多い古本屋)で見つけた。

作品を量産する売れっ子の小説屋による沖縄を舞台にしたサスペンスとしては、例えば、西村京太郎『オキナワ』『幻奇島』、斎藤栄『横浜-沖縄殺人連鎖』、内田康夫『ユタが愛した探偵』を思い出すが、それらと比べて断然良い出来である。また、同じやんばるの森を舞台にした鳥飼否宇『密林』がペラペラの軽い作品だったのに比べても、やはり優れている。この数日、通勤電車の中で、ケービンに乗っているような気持ちにさせてもらった。

戦時中。沖縄独立論を居酒屋で一席ぶったのを密告され、刑務所に収監されている男が主人公。実は王族・尚家の末裔である。米軍の攻撃により刑務所も解散となり、さまざまな出会った人物たちとともに、やんばるに向かう。足はむろん、破滅寸前のケービンである。

国場駅でケービンの車両を見つけ、終点の嘉手納駅まで。安里駅のあたりは上り坂、傷ついた車両と乏しい燃料でゆっくりと進む。金城功『ケービンの跡を歩く』にあったように、きっと普段でも速度が遅くなり、乗客たちが飛び乗ったりもできたあたりに違いない。作者は愛着を持ってケービンの最期の姿を想像している。基地と引き換えの北部振興策などではなく、真っ当な公共交通として復活するなら、それは愉快なことに違いない。それがゆいレールなのかもしれないが。

日本軍の横暴、住民へのスパイ疑惑や虐殺、浸透していた皇民化教育などについても取り入れている。また「鬼畜米英」教育、その裏返しの差別についても描いている。例えば、捕虜にした米兵が自分たちのことを「原住民」と呼ぶのを聞いて、主人公は『冒険ダン吉』を思い出す。先日、沖縄出身のUさんに聞いた話でもある。

「原住民ときたか。尚純は苦笑いした。自分たちも”少年倶楽部”連載の漫画『冒険ダン吉』で、南洋の住民を蛮人呼ばわりした。文句をいえる筋合いではなかった。」

嘉手納より北はケービンを使うことができず、米軍のジープやトラックで、国頭村のタナガーグムイをめざす。ここに、悪辣な日本軍の少佐が潜んでいると聞いたからだ。ちょっとした崖の下に滝と池があり、自分も何年か前、海老を採ったりして遊んだところだ。もちろん現在行くのとはわけが違う。この話によると、オオタニワタリの新芽やヒカゲヘゴの幹の中を食べたとある。そうか、ヘゴは食べられるのか。


タナガーグムイ(2006年) Pentax LX、FA77mmF1.8、TMAX400、月光2号

●参照
金城功『ケービンの跡を歩く』
宜野湾市立博物館、ゆいレール展示館(ケービンの展示)
鳥飼否宇『密林』
ヒカゲヘゴ、PENTAX FA★24mmF2.0
オオタニワタリ
『けーし風』ディエン報告(『冒険ダン吉』)