Sightsong

自縄自縛日記

ジョナス・メカス(5) 『営倉』

2011-06-26 10:54:33 | 小型映画

ジョナス・メカス『営倉(The Brig)』(1964年)を観る。メカスはリヴィング・シアターで行われた同名の演劇を観に行き、これをフィルム化することを突如思いつく。最終日であったから、メカスとこのアイデアに同意した演劇の俳優たちが翌日夜の閉鎖された劇場に入り込み、セットを俳優たちが作りなおし、同時録音の16mmカメラでいつもの公演を撮る、という方法であった(後日、メカスは映画組合に大目玉をくらったという)。従って、劇映画とも違うし、ドキュメンタリーとも違う。メカスの異色作である。

「これがほんものの営倉だったらどうだろう。米軍海兵隊の許可をとってどこかの営倉に入り込み、そこで行われていることを映画に撮るとしたら。人の目に、どんな記録を見せられるというのか! その時演じられていた「営倉」のありさまは、私にとってはほんものの営倉だった。」
(『メカスの映画日記』フィルムアート社)


『営倉』上映用16mmフィルムレンタルのチラシ

営倉は懲罰房、米軍海兵隊で営倉に入れられている下っ端たちは、教官に熾烈な訓練とシゴキを受ける。教官たちは絶対的な存在であり、棍棒で気の向くまま囚人たちを殴る。囚人は逆らってはならず、「Yes, Sir!」と叫んではロボットのように起床し、着替え、掃除し、走り、腕立て伏せをし、何やら復唱する。何度観ても、何を言っているのかよくわからない。ただひたすらに、叫び声と、規則的に動かす足踏みのだっだっだっという音が耳に残る。

海兵隊のシゴキを描いた映画としては、スタンリー・キューブリック『フルメタル・ジャケット』(1987年)があったが、情けのかけらもない描写と裏腹の美しい映像とドラマはあくまで劇映画だった。1日で撮られ、既に演劇を観てしまっているという予定調和を避けるために弟のアドルファス・メカスに残酷に編集させたという『営倉』の生の存在感とは、根本的に異なっている。

『営倉』の上映用16mmフィルム貸出のチラシが挟み込まれた『newsreel catalogue no.4 / March 1969』(Newsreel Features)という機関誌を持っている。ロバート・クレイマー『The Edge』なんかのチラシも入っていたりする。何よりも興味深いのは、表紙にフィデル・カストロの写真があるように、キューバやヴェトナムのニュースフィルムを貸し出す組織であったことだ。米国のインディペンデント映画は大きな政治への抵抗という文脈にも位置していた。

●参照
ジョナス・メカス(1) 『歩みつつ垣間見た美しい時の数々』
ジョナス・メカス(2) 『ウォルデン』と『サーカス・ノート』、書肆吉成の『アフンルパル通信』
ジョナス・メカス(3) 『I Had Nowhere to Go』その1(『メカスの難民日記』)
ジョナス・メカス(4) 『樹々の大砲』