吉田文和『グリーン・エコノミー 脱原発と温暖化対策の経済学』(中公新書、2011年)を読む(ここではシゴトに関係するものは取りあげないのだが)。
下らぬ温暖化懐疑論に釘を刺し、脱原発を明確に謳っている点に好感を覚えた。環境政策は複雑であり、一般書でそれを詰め込もうとするとメッセージを伝えるというよりハンドブックのようになってしまう。本書においてもそれを回避できているとは言えないが、良書である。偏った既存政策に対して偏った意見ばかりをぶつけるのでは勝つことができないからである。
いくつか頁の角を折った箇所がある。
○福島原発事故において、被害者よりも加害者救済を優先させる方針には、水俣病問題との類似性がある。
○J・スティグリッツとA・センらが『経済実績と社会進歩の計測』レポートをまとめた(2008年、フランス・サルコジ大統領の指示)。それによると、持続可能性(sustainability)を考慮した経済・環境・社会側面に関する「人々のよい生き方」(well-being)を捉えるには、GDPは不適切な測定基準である。
○グリーン開発の構想実現に向けた最大の障害は、経済的な要因ではなく、つねに政治的な要因である。
○ドイツのように、規制があってこそ再生可能エネルギーも環境技術も成長する。縦割行政の解決も重要である。
○日本では、ごみ焼却工場は「迷惑施設」扱いとなり人口の少ない地域に立地させる。EUではエネルギー利用を積極的に行うため都市中心部に立地させる。
(※ごみ処理が置かれてきた社会的差別構造や、ダイオキシン問題について、ここでは触れられていない)
○原発解体の難題のひとつに、原子炉全体の放射化という問題がある(本来放射性ではない原発構造物の金属が放射能を持つようになる)。そのため解体に想定を超える時間とコストがかかる。
○解体により発生する放射性廃棄物すべてを処分できる処分場を確保できた国はない。ドイツ・アッセ処分場(1992年に閉鎖)は、建設時には、地下が処分に適した地質だと地元住民に説明された。その後処分場の壁が崩れ、地下水に浸透した。政府はそれを10年近く公表しなかった。これがきっかけとなり、その地域も処分場の受け入れを拒絶するようになった。
○東日本大震災で発生する大量のがれきを、バイオマス燃料として使うことができる。
(※ここでは、それによる放射性物質拡散に触れられていない)
○東北地方は、風力、バイオマスをはじめ、再生可能エネルギーのポテンシャルが大きく、復興によりその一大センターとなりうる。