Sightsong

自縄自縛日記

エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』

2011-06-15 23:22:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)を再見する。何度も観たフィルムであり、それほどに貴重な映像が含まれている。私の持っているのはVHSだが、今ではDVDも出ている。

チャールズ・ゲイル(テナーサックス)が自身や音楽について語る場面に多くの時間が割かれている。その声は演奏から想像するような重いものではなく、むしろ意外なほど快活だ。7歳ころにピアノを始めて、トランペットや大きなハープなんかも触ってみて、15-17歳ころにサックスに出会った。練習はいまでも1日に8時間くらいはしているよ。1960年代はジョン・コルトレーン、オーネット・コールマン、セシル・テイラー、サニー・マレイ、アルバート・アイラーなんかが登場して、定型に陥っていたジャズを蘇らせた重要な時代だった。ジャズは個人的な(personal、individual)音楽だ。個性を追求して、さらに世界とどう折り合うか、それが重要だ。自分には辛い時代もあった。自分はカネのために活動しているんじゃない。―――そんな内容を、憑かれたように延々と話し、次第に判りにくくなっていく。

そのゲイルは、マリリン・クリスペル(ピアノ)、ラシッド・アリ(ドラムス)、ペーター・コヴァルト(ベース)とのカルテット、コヴァルト、ジョン・ベッチ(ドラムス)とのトリオ、さらに大編成、街角でのテナーソロ、練習風景と、さまざまな姿を見せる。特にアリの蛇のようにまとわりつくドラムソロが素晴らしい。

コヴァルトはドイツ語で、自分は白人だから黒人プレイヤーのような根ざすルーツがなく、ヨーロッパ人であると屈折したことを話す。ゲイルに日本音楽、三味線のことなんかを教えているのが面白い。ウィリアム・パーカー(ベース)がその妻と語るシーンもあるが、これは意外につまらない。

演奏の見所は多い。若いジョン・ゾーン(リード)とウェイン・ホーヴィッツ(キーボード)との実験的なデュオ。愉しげなビリー・バング(ヴァイオリン)のグループ。ドン・チェリーがピアノを弾くオーケストラ。イレーネ・シュヴァイツァー(ピアノ)とリュディガー・カール(テナーサックス)とのデュオ。

ペーター・ブロッツマンデイヴィッド・S・ウェアフランク・ライト、チャールズ・ゲイルというヘビー級テナーサックスが4人揃い(!)、ベースにコヴァルトとパーカー、ドラムスにアリ、ピアノがシュヴァイツァーという凄まじく重いアンサンブルもある。そして、パーカー夫婦のアンサンブルでは、A.R.ペンクの大きな絵の前で、ダンサーが5人踊り、ジーン・リーを含む3人のヴォイス・パフォーマーらが奇妙な音を形作っていく。白眉といえばすべて白眉だ。

但し、チャールズ・タイラー(アルトサックス)のクインテットでは、ヘンな歌詞をタイラー本人が歌いまくる様子がいかにも中途半端でがっかりさせられる。しかし、贅沢を言ってはならない。ウェアやライトやタイラーの映像は、これでしか観たことがないのだから。


●参照
ESPの映像、『INSIDE OUT IN THE OPEN』
ヨーロッパ・ジャズの矜持『Play Your Own Thing』
イレーネ・シュヴァイツァーの映像
ブラクストン、グレイヴス、パーカー『Beyond Quantum』
ウィリアム・パーカーのベースの多様な色
歌舞伎町の「ナルシス」、「いまはどこにも住んでいないの」(チャールズ・ゲイル)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ
ペーター・ブロッツマン
ラシッド・アリとテナーサックスとのデュオ
ジョン・ゾーン『Interzone』 ウィリアム・バロウズへのトリビュートなんて恥かしい
ミッキー・スピレイン、ジョン・ゾーン
『Treasures IV / Avant Garde 1947-1986』(ゾーンの音楽と実験映像)
チャールス・タイラー
ドン・チェリーの『Live at the Cafe Monmartre 1966』とESPサンプラー
横井一江『アヴァンギャルド・ジャズ ヨーロッパ・フリーの軌跡』