ポール・オースター『Sunset Park』(2010年)を読む。今のところの最新作である。
主役のマイルスは、義理の兄弟を小さい頃に誤って死なせてしまい、若い日に失踪した男である。もっと若い十代の女の子と恋に落ちるが、やはり逃げ出す破目に陥る。駆け込んだのはニューヨーク、サンセット・パークにある廃墟であり、呼び寄せてくれた友人たちと4人で共同生活を送ることになる。あくまでマイルスが主人公だが、残りの3人、汚くて癖のある大男のビング、ウィリアム・ワイラー『我等の生涯の最良の年』を執拗に分析して論文を書き続けるアリス、人の肌の温もり恋しさにエロチックな妄想にふけり、エロチックな絵を描き続けるエレンも、同時に主人公である。そして、小さな出版社を営むマイルスの父、再婚相手、女優として大成している離婚した母も、それぞれの物語を紡いでいく。
ざっくり言えば、傷ついた若者(と大人)たちの逃走と再生の群像劇である。もちろんオースターの小説であるから、途中でやめることができない。ところが、いつまで経っても面白くならないし、刮目するような展開がない。ワイラーのみならず、ボルヘスやら劉暁波やら、知られざるメジャーリーガーやら、ディテールは凝っている。しかしこのつまらなさは何だろう。あり得ないような偶然の出来事や、それらが生み出す運命の恐ろしさや、カタルシスにも転じうるような凄惨な事件といったものが描かれないことには、オースター世界が完成しないということだろうか。
前作『Invisible』(2009年)でもそうだったが、本作ではそれに輪をかけて、エロ話が満載であり、辟易させられる。それはまあ、人間と性とは不可分であり、それを過剰に描いてこそ感じるものがあることは理解できる。それでも、いくらなんでも過剰である。オースターからしばらく遠ざかってもいいかな。
●参照
○ポール・オースター『オラクル・ナイト』
○ポール・オースター『ティンブクトゥ』
○ポール・オースター『Invisible』
○ポール・オースター『Travels in the Scriptorium』
○ポール・オースターの『ガラスの街』新訳