アジア記者クラブ主催の永田浩三さん講演会「3・11までなぜ書けなかったのか メディアの責任とフクシマ原発事故」を聴いた(2012/3/21、明治大学リバティタワー)。永田さんは元NHKプロデューサーであり、2001年には従軍慰安婦問題を取り上げたドキュメンタリーを手掛けるも、自民党の政治家たちの介入により大幅改変がなされる結果となっている。また、最近では、『大江健三郎 大石又七 核をめぐる対話』(NHK・ETV特集、2011/7/3)の企画をなさっている(>> リンク)。そのようなバックボーンのもとでのメディア批判である。
講演の詳細は『アジア記者クラブ通信』に掲載されるので、「さわり」のみ。
なぜ大メディア、とりわけNHKが、「3・11」以後の原発事故報道において、あまりにも楽観的で(結果的にはウソ報道)、かつ、被曝者の増加という二次災害につながるような政府広報のたれ流しを行う報道に終始したのか。永田さんは、NHKの体質こそがその結果を生んだのだとする。すなわち、報道する情報の依拠を権威や官報に求め、ゲストスピーカーの選定も権威という基準で行い、そして、市民との接点が決定的に少なく、市民を信用していないのだ、と。
勿論、NHKには良質なドキュメンタリーが多い。その中には、事件や事故を事後的に検証する番組もある(津波、水俣病など)。しかしながら、テレビというものが、事件・事故が起きたら取り上げるものであり、それらを予防することにも、長期的なフォローにも、不向きなメディアであるとする。永田さんはそのようなテレビのあり方に疑義を唱えると同時に、少なくとも原発事故報道に関しては自己検証すらなされていないのだと言う。「NHKは事故報道の責任に関し、ハリネズミのように身を固め、なかったことにさえしようとしている。しかし、被曝者を増やした責任の一端もあるのではないか。」
会が終わってから、ネット上でのみ存じ上げていた永田さんにご挨拶し、残った十数人で懇親会。愉しかった。
●参照(原子力)
○『これでいいのか福島原発事故報道』
○『大江健三郎 大石又七 核をめぐる対話』、新藤兼人『第五福竜丸』
○高橋哲哉『犠牲のシステム 福島・沖縄』、脱原発テント
○新藤兼人『原爆の子』
○鎌田慧『六ヶ所村の記録』
○『核分裂過程』、六ヶ所村関連の講演(菊川慶子、鎌田慧、鎌仲ひとみ)
○『原発ゴミは「負の遺産」―最終処分場のゆくえ3』
○使用済み核燃料
○有馬哲夫『原発・正力・CIA』
○山本義隆『福島の原発事故をめぐって』
○開沼博『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』
○黒木和雄『原子力戦争』
○福島原発の宣伝映画『黎明』、『福島の原子力』
○東海第一原発の宣伝映画『原子力発電の夜明け』
○『伊方原発 問われる“安全神話”』
○原科幸彦『環境アセスメントとは何か』
○『科学』と『現代思想』の原発特集
○石橋克彦『原発震災―破滅を避けるために』
○今井一『「原発」国民投票』
○長島と祝島
○長島と祝島(2) 練塀の島、祝島
○長島と祝島(3) 祝島の高台から原発予定地を視る
○長島と祝島(4) 長島の山道を歩く
○既視感のある暴力 山口県、上関町
○眼を向けると待ち構えている写真集 『中電さん、さようなら―山口県祝島 原発とたたかう島人の記録』
○1996年の祝島の神舞 『いつか 心ひとつに』