加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(Kaitai Records、1976年録音)を聴く。同メンバーによる『新海』(>> リンク)の前日の録音である。
加古隆 (p)
高木元輝 (reeds)
豊住芳三郎 (ds)
A面の「滄海」では、聴客の唾を呑みこむ音さえ聞こえそうな緊張感のあるなかで、高木元輝の肉声のような音がじわじわと時空間を支配していく。やがて豊住芳三郎、加古隆が入ってきて音楽を創りあげていく。
B面には、何と「Nostalgia for Che-ju Island(済州島への懐い)」が収録されている。豊住芳三郎+高木元輝『If Ocean Is Broken(もし海が壊れたら)』(1971年)にも収録された曲である。この4年前の演奏が直情的なものであったのに比べ、ここでは、音や情の発露が抑制されているようだ。時に、サックス2本でのローランド・カークが得意とした奏法もみせる。素晴らしい演奏の記録である。
やはり、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ「苦悩の人々」のメロディが引用されており、『モスラ・フライト』(1975年)ではそのタイトルで記録している。いやむしろ、引用ではなく、「Nostalgia for Che-ju Island」はすなわち「苦悩の人々」そのものではなかったか。朝鮮半島をルーツとする高木元輝こと李元輝にとって、この曲の演奏は、済州島の受苦に向けられたものではなかったか。そんなふうに想ってみた。
高木元輝、渋谷(2000年) Pentax MZ-3、FA50mmF1.4、TMAX3200、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、2号フィルタ使用
●参照
○加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』
○豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』
○高木元輝の最後の歌