Sightsong

自縄自縛日記

アンヌ・フォンテーヌ『ココ・アヴァン・シャネル』

2012-03-06 07:06:37 | ヨーロッパ

アンヌ・フォンテーヌ『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年)を観る。仏語の「avant」は「前」の意味だそうで(わたしは仏語を解さない)、すなわち、シャネル前史のココといった意図でタイトルがつけられている。ココとはキャバレーでの歌い手時代の渾名である。

どこかで、丸谷才一が、20世紀を代表する女性はサッチャーでもボーヴォワールでもなくココ・シャネルだと書いていたと記憶しているが、それを確かめようにもどのエッセイ集であったか探し出せない。それはともかく、シャネル「以前」の個人史という意味での「アヴァン」ではなく、アヴァンギャルド=前衛であったという意味で、確かに20世紀的な存在であったのだな、と、映画を観て感じる。

芸能人になることを諦め、パリ郊外の交際相手の屋敷で過ごすうち、ココは、自分の美意識に沿ったファッションを希求するようになる。時は20世紀になったばかり、金持ちたちのファッションは、ごてごてと過剰な装飾を付け、コルセットで贅沢の結果としての身体を締め付けるようなものだった。ココは、それらへのアンチテーゼとして、シンプルかつ自然な服装を押し出す。

金持ちたちは、それを見て「男の子のようだ」、「まるで貧乏人」と評した。しかし、いまの目で見れば、ファッションの近代化どころか現代そのものである。映画が本当ならば、シャネルは時代を飛び越えた「アヴァンギャルド」だった。