Sightsong

自縄自縛日記

上里隆史『海の王国・琉球』

2012-03-05 23:04:42 | 沖縄

上里隆史『海の王国・琉球 「海域アジア」屈指の交易国家の実像』(洋泉社、2012年)を読む。

12世紀頃から1609年の島津氏侵攻までの時代を「古琉球」と称する。三山時代、15世紀からの琉球王国の時代、古琉球は常に海を介した関係のなかに成立していた。著者はこの視点のことを「海域史」という。

14世紀に成立したとは冊封・朝貢の関係にあり、博多-寧波ルートとは別の南方ルートを活用していた。16世紀頃、明の貨幣システムがを日本や南米から吸い込むようになると(16世紀には石見銀山の銀生産量は世界の3分の1に達していた >> リンク)、「倭人」を利用した貿易を行った。そして、シャム(タイ)やマラッカ(マレーシア)など東南アジアとの交易も大きかった。琉球はまさに海洋王国であった。その中心になったハブ都市が、那覇であったのだという。珊瑚礁のリーフに座礁することのない港湾が、那覇と、本部半島の運天など数少ない場所に限られていたからである。

従って、那覇は、日本人、中国人(久米村に居住)、東南アジア人など多様な民族が滞在し、活動する場となった。非常に興味深いのは、このことと関連する宗教のありようだ。琉球といえばごく一部を除いて在来信仰が中心であり続けたと思ってしまうが、実はそうでもなかった。波上や普天間など、権現社(権現とは本地垂迹思想に基づき、仏が日本の神々の姿となって現れた仮の姿)は多く根付き、それらは熊野信仰で占められていた。実は、熊野が地中の黄泉の国に通じることと、琉球に数多くの鍾乳洞があることとの共通点にも起因するのだという(!)。

とにかくエキサイティングで面白い本である。少なくとも、日琉同祖論などよりも実証的であり、ロマンチックでさえある。著者には、薩摩侵攻前後の琉球を描いた『琉日戦争一六〇九 島津氏の琉球侵攻』(ボーダーインク、2009年)という良書もある。

●参照
上里隆史『琉日戦争一六〇九 島津氏の琉球侵攻』
杉山正明『クビライの挑戦』
村井紀『南島イデオロギーの発生』
柳田國男『海南小記』
伊波普猷の『琉球人種論』、イザイホー
伊波普猷『古琉球』
与那原恵『まれびとたちの沖縄』
屋嘉比収『<近代沖縄>の知識人 島袋全発の軌跡』
岡本恵徳『「ヤポネシア論」の輪郭 島尾敏雄のまなざし』
島尾敏雄対談集『ヤポネシア考』 憧憬と妄想
島尾ミホ・石牟礼道子『ヤポネシアの海辺から』
島尾ミホさんの「アンマー」
齋藤徹「オンバク・ヒタム」(黒潮)
西銘圭蔵『沖縄をめぐる百年の思想』
仏になりたがる理由(義江彰夫『神仏習合』)
浦安・行徳の神社(2)(熊野とイザナミ)


是枝裕和『幻の光』

2012-03-05 00:29:59 | 東北・中部

是枝裕和『幻の光』(1995年)を観る。

尼ヶ崎に住む男(浅野忠信)は、妻・ゆみ子(江角マキコ)と生後3ヶ月の息子を残し、突然、線路を歩き轢死する。何の予兆もない自殺だった。数年が経ち、彼女は、大阪を出て輪島市で暮らす子連れの男(内藤剛志)と再婚する。家族にも地域にもとけ込み、ふたたび幸せな生活を取り戻す。しかし、いつまでも、夫の自殺を納得できないことが、心にしこりとして残っていた。ある時、葬列に加わり、夜になっても燃え続ける送り火を視て、それは噴出する。そして、義父がこう言ったのを耳にする。夜、漁に出ていると、向こう側に光が視える、呼んでいることがあるのだ、と。

尼ヶ崎の路地、アパートの室内、田舎のトンネル、輪島の古民家の中、日本海を望む隙間と日本海から視る民家、それぞれのフレームのなかで静かに進むドラマのテンポが秀逸。低アングルからのカメラは、ときに小津安二郎を思わせる。北陸の民家は、自分のなじみ深い瀬戸内のそれとは随分異なるが、時に、民家の佇まいや湿った田園風景に、胸がしめつけられそうになる。

いい映画である。ツボを突かれてしまった。もっと早くに観たかった。


成島出『八日目の蝉』

2012-03-05 00:12:28 | 中国・四国

成島出『八日目の蝉』(2011年)を観る。

何と言おうか・・・、一面的なモラルらしきものの押し付けがどうも。

それでもいい映画だと思うのは、誘拐犯役の永作博美や写真館主人の田中泯の押し出しの強さ。永作の演技は完全に主役を食っていた。ストーリーテリングの巧さ(そうか、成島監督は『クライマーズ・ハイ』の脚本を書いた人か)。それから、小豆島の高低差のある風景による。

瀬戸内の島々は、山田洋次『男はつらいよ 寅次郎の縁談』(1993年)において松坂慶子が歩いていたり、松田定次『獄門島』(1949年)で片岡千恵蔵の金田一耕介がのり込んだりといった風景を観るたびに、ああ滞在したいという気持ちで一杯になる。

●参照
山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』と井口奈己『人のセックスを笑うな』(永作博美)
本谷有希子と吉田大八の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(永作博美)
篠原哲雄『地下鉄に乗って』と浅田次郎『地下鉄に乗って』(田中泯)
姜泰煥・高橋悠治・田中泯
姜泰煥・高橋悠治・田中泯(2)
犬童一心『メゾン・ド・ヒミコ』、田中泯+デレク・ベイリー『Mountain Stage』
松田定次『獄門島』