Sightsong

自縄自縛日記

ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』

2012-06-14 00:46:03 | アヴァンギャルド・ジャズ

ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(バーナード・ヨセ、2011年)を観る。

本編は、演奏よりも、ブロッツマンや他の音楽家たちの生の声を中心にしている。

演奏のため旅から旅へのブロッツマン。彼は、自分の生い立ちについて語る。ドイツ敗戦後、ソ連兵に比べドイツ兵は卑小な存在に見えた。父はソ連に収監されたままなかなか戻ってくることができず、ストリートでも稼ぐ、貧乏な少年時代であった。父の家系は軍人や官僚ばかりであり、そのこともあって、ブロッツマンが絵画を学び始めたとき、父はそれを理解できず、結婚すると口をきかない仲になってしまう。ふたたび話すことができたのは、父の死の直前であったという。

ブロッツマンを中心としたライヴ映像をまじえ、さまざまな音楽家たちがインプロヴィゼーションについて語っているのは愉快だ。これは、付録映像のインタビュー集でも続く。

ブロッツマン、「サックスは独学だから何やらのコードを上から下まで吹くなんてできない」。
エヴァン・パーカー、「テナーサックスは、その人の個性をもっとも出すことができる楽器だ」。
フレッド・ヴァン・ホーフ、「予測できないのがインプロヴィゼーションだ。24時間インプロヴィゼーションだ」。
ハン・ベニンク「ダダだ!」。
マッツ・グスタフソン、「ベースやドラムスが入るとやりやすいのは確かなんだけど、サックス3人のみで展開させていくことの手ごたえといったら」。
ケン・ヴァンダーマーク、「インプロヴィゼーションってのは、連続性のスナップショットだ(snapshot of the continuity)」。

・・・・・・、皆好き勝手なことを言い放つものだ。それにしても、ケンさんはマジメな顔で良いことを言う。前々から考えていたフレーズなのかな。

印象的なのは、ブロッツマンもパーカーも、自分はヨーロピアンだと何度も強調し続けていることだ。ブロッツマンなどは、「自分は黒人でもないし、米国にそのようなルーツも持っていない。自分はドイツ人でありヨーロッパ人だ」と、悟ったかのように呟く。その一方で、「誰でも心のなかにブルースを持っている」とも。世界にそれぞれ違った形で存在するジャズとブルースというものを、矜持とともに示しているわけであり、嬉しくなってしまう。

●参照 
ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン
ペーター・ブロッツマン
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(ブロッツマン参加)
セシル・テイラーのブラックセイントとソウルノートの5枚組ボックスセット(ブロッツマン参加)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(ブロッツマン参加)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(ブロッツマン参加)
4 Corners『Alive in Lisbon』(ケン・ヴァンダーマーク参加)
マッツ・グスタフソンのエリントン集
大友良英+尾関幹人+マッツ・グスタフソン 『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置展 「with records」』
1988年、ベルリンのセシル・テイラー(エヴァン・パーカー参加)
ネッド・ローゼンバーグの音って無機質だよな(エヴァン・パーカーとのデュオ)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(ブロッツマン、エヴァン・パーカー、ハン・ベニンクらとのデュオ)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(エヴァン・パーカー参加)
シュリッペンバッハ・トリオの新作、『黄金はあなたが見つけるところだ』(エヴァン・パーカー参加)
イレーネ・シュヴァイツァーの映像(ハン・ベニンク参加)
横井一江『アヴァンギャルド・ジャズ ヨーロッパ・フリーの軌跡』
ヨーロッパ・ジャズの矜持『Play Your Own Thing』