夜中のヘンな時間に起きてしまい、大島渚『新宿泥棒日記』(1969年)を観る。もう何度目だろう、とても好きな映画なのだ。
『アートシアター ATG映画の全貌』(夏書館、1986年)より
横尾忠則、唐十郎、麿赤児、李麗仙、高橋鉄、松田政男、それから大島映画常連の佐藤慶、戸浦六宏、渡辺文雄。もはやこれだけで伝説である。
1968年。サイゴン(現・ホーチミン)や那覇との共時性を示しつつ、映画は、強烈な磁場・新宿において展開される。出鱈目で、優柔不断で、実存に不安と不満を抱える者たちが、欲望を漲らせて、新宿に集まってくるのである。わたしのもっとも好きな街、新宿をこのように見せられると、誰の中にも<新宿>というものがあるのだろうな、などと思ってしまう。
その磁場において、膨大なテキストという新たな磁場。ジャン・ジュネ、魯迅、スターリン、吉本隆明、田村隆一、・・・欲望と欲求不満はその中で別の形に変貌していく。
キャスティングも、ドキュメンタリー臭をことさらに出すことも、大島のあざとさ満開だ。登場人物たちが性の権化・高橋鉄の家を訪れて高説を聴く場面などは、シンクロ録音をしながら、敢えて、カメラのモーター音を入れている。ちょうど、小川紳介『三里塚の夏』(1968年)と同時代に、同じ手法が使われていながら、まったく色の異なる映画であることが面白い。
それにしても、このときまだ30歳になる前の唐十郎の迫力は凄い。数年前に井の頭公園でテントの間に座っている氏を見つけ、愚かにも、近寄って、写真を撮ってもよいかと尋ねたことがある。氏はにこりと笑い、あちらの人に訊いてください、と応えた。怖かった。
●参照
○大島渚『アジアの曙』
○大島渚『夏の妹』
○大島渚『少年』
○大島渚『戦場のメリークリスマス』
○中原みすず『初恋』と塙幸成『初恋』
○半年ぶりの新宿思い出横丁とゴールデン街
○東松照明『新宿騒乱』
○平井玄『愛と憎しみの新宿』
○新宿という街 「どん底」と「ナルシス」
●参照(ATG)
○淺井愼平『キッドナップ・ブルース』
○大島渚『夏の妹』
○大島渚『少年』
○大森一樹『風の歌を聴け』
○唐十郎『任侠外伝・玄界灘』
○黒木和雄『原子力戦争』
○黒木和雄『日本の悪霊』
○実相寺昭雄『無常』
○新藤兼人『心』
○勅使河原宏『おとし穴』
○羽仁進『初恋・地獄篇』
○森崎東『生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言』
○若松孝二『天使の恍惚』
○アラン・レネ『去年マリエンバートで』
○グラウベル・ローシャ『アントニオ・ダス・モルテス』