Sightsong

自縄自縛日記

元ちとせ『平和元年』

2015-07-25 09:27:32 | ポップス

元ちとせの久しぶりの新作!『平和元年』(Ariola、2015年)には、題名通り、平和と反戦の歌が集められている。

デビュー時から落ちていく声量と、逆に過剰になっていくこぶしとが不満に思えてしかたがない時期があった。確かにこのアルバムでも、最終曲「さとうきび畑」はデビュー前の19歳のときにデモ録音したものであり、その伸びやかな声は現在と明らかに異なっている。

だが、もはや、このように作品を出し続けてくれれば、そんなことはどうでもよいのだ。声が変化していくのは当然であり、依然、元ちとせは強烈な個性を発散している。すべて味わい深い歌唱ばかりである。

ピート・シーガーの「腰まで泥まみれ」では、ただひたすらに「進め!」と叫ぶ隊長を「馬鹿」と見限り、引き返す兵隊を歌う。松任谷由実の「スラバヤ通りの妹へ」では、「日本」に向けられた視線を受け止めて歌う抒情。谷川俊太郎と武満徹のコンビによる「死んだ男の残したものは」では、「死んだ兵士の残したものは/こわれた銃とゆがんだ地球/他には何も残せなかった/平和ひとつ残せなかった」と、敢えて大きな物語を棄てて戦争を直視している。そして、坂本龍一のキーボードに伴奏されて歌う「死んだ女の子」。

プロテストソング集としても、成熟した歌手の作品のひとつとしても推薦。

●参照
元ちとせ『Orient』(2010年)
元ちとせ『カッシーニ』(2008年)
元ちとせ『Music Lovers』(2008年)
元ちとせ『蛍星』(2008年)
『ミヨリの森』(2007年)(主題歌)
元ちとせ『ハイヌミカゼ』(2002年)
元ちとせ×あがた森魚
『日本地図から消えた島 奄美 無血の復帰から60年』(ナレーターとして参加)
『ウミガメが教えてくれること』(出演)