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自縄自縛日記

清水潔『「南京事件」を調査せよ』

2017-03-15 23:53:09 | 中国・台湾

清水潔『「南京事件」を調査せよ』(文藝春秋、2016年)を読む。

「NNNドキュメント'15」枠で放送された『南京事件 兵士たちの遺言』(2015/10/4)は、たいへんな衝撃を受けたドキュメンタリーだった。ともすれば抽象的に扱われがちな事件だが、この番組は、実際に何が起きたのかについて、兵士たちの従軍日記などの一次資料から再現を試みたものだった。それらを重ねあわせつなぎあわせると、虐殺が、組織的にも、またそれを背景として感覚が麻痺した個人の行動としても、実際に行われたのだということがよくわかる。

本書は、その取材の様子や、ドキュメンタリーに盛り込めなかった部分を含めて書かれたものである。ここで強調されていることは、「歴史修正主義者」たちの策動のパターンだ。すなわち、一点でもアラや間違いを見つけると、それにより全体を否定してしまおうという戦略であり、これは、沖縄戦において「集団自決」を「直接的な軍命があったかどうか」という一点のみを切り崩そうとする動きにも使われた。

もうひとつ重要な点は、南京事件を否定しようとする者は、別の事件を持ち出してくることだ。たとえば「通州事件」。南京事件と同じ1937年に、通州(現、北京)において、中国の保安隊が日本軍を攻撃し、居留民200名ほどが惨殺された事件である。しかし逆に、南京と同じく日本軍が起こしたジェノサイドも少なくない。たとえば、日清戦争時の「旅順大虐殺」では、日本軍が中国の民間人を1万人以上殺した。

これらは別々の悲惨で検証されなければならない事件であり、ひとつの事件がもうひとつの事件を相殺するようなものではない。当然のことにも思えるが、そうでない言説は多い。

●南京事件
『南京事件 兵士たちの遺言』
『従軍作家たちの戦争』、笠原十九司『南京事件論争史』
陸川『南京!南京!』
盧溝橋(「中国人民抗日戦争記念館」に展示がある)
テッサ・モーリス=スズキ『過去は死なない』(歴史修正主義)
高橋哲哉『記憶のエチカ』(歴史修正主義)