Sightsong

自縄自縛日記

マリア・シュナイダー・オーケストラ@ブルーノート東京

2017-06-10 23:56:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブルーノート東京にて、マリア・シュナイダー・オーケストラ(2017/6/10, 1st)。妙に若い人が多いが何でだろう。

Maria Schneider (comp, cond)
Steve Wilson (as, cl, fl)
Dave Pietro (as, fl)
Rich Perry (ts)
Donny McCaslin (ts, ss, fl)
Scott Robinson (bs, ts, ss)
Greg Gisbert (tp)
Jonathan Heim (tp)
Nadje Noordhuis (tp)
Mike Rodrigues (tp)
Keith O'Quinn (tb)
Ryan Keberle (tb)
Tim Albright (tb)
George Flynn (tb)
Gary Versace (accordion)
Frank Kimbrough (p)
Ben Monder (g)
Jay Anderson (b)
Clarence Penn(ds)

見るからに愉し気なアウラを身にまとったマリア・シュナイダーが出てきたあとは、もう魔術。マリアさんは事前に決めた通りに振る舞うのではなく、明らかに、その場の判断で柔軟な指揮をしていた。指示もゆるやかな感じである。しかし一方で、アンサンブルには緻密な感もある。何をしているのだろう。またソロイストが張り切っている間は、端に座って愉快そうにその演奏を眺めている。

最初はベン・モンダーがサウンドに柔らかさを与えたあと、トランペットのマイク・ロドリゲスとグレッグ・ギスバートの対決。ロドリゲスの力強い金属音に対しギスバートのこもった音が対照的。2曲目は『Concert in the Garden』の曲、ロドリゲスのトランペットとスティーヴ・ウィルソンのソプラノとの「dance」、ウィルソンの音が良い。3曲目はギスバートのトランペットに続き、ライアン・ケベールのまろやかなトロンボーン、ウィルソンのアルト、ゲイリー・ヴェルサーチのアコーディオン。

4曲目と5曲目は『The Thompson Fields』の収録曲である。前者ではリッチ・ペリーがサウンドと一体化するようなソフトなテナーを吹いた。後者ではスコット・ロビンソンがそれまでのバリトンからテナーに持ち替え、まるで虫の羽音が聴こえるような見事な音を発した。

6曲目は「sailing」がテーマの曲。ここでフィーチャーされたのはフランク・キンブロウとダニー・マッキャスリンである。キンブロウももちろん良いのだが、驚きはマッキャスリン。それまで敢えて大人しくしていたかのように、鎖をほどかれた野獣は、実にレンジが広くリズムも自在なテナーソロを繰り広げた。おそらくオーディエンスの多くが歓喜に眼を見開いてマッキャスリンのソロを凝視していたであろう。さすがである。これに対しマリアさんは、やはり歓喜と、そして猛獣使いの眼をもって、マッキャスリンを逃がすまいと見つめながらかれににじりより、また檻に入れんとして愉しそうにバンドメンバーを操った。そして最後は、デイヴ・ピエトロをフィーチャーした短い曲で締めくくった。

なるほどね、これでは音楽の化身のように言いたくなるのも不思議はない。

●マリア・シュナイダー
マリア・シュナイダー『The Thompson Fields』(2014年)
マリア・シュナイダー『Allegresse』、『Concert in the Garden』(2000、2001-04年)

●ベン・モンダー
ベン・モンダー『Amorphae』(2010、13年)
ビル・マッケンリー+アンドリュー・シリル@Village Vanguard(2014年)
トニー・マラビー『Paloma Recio』(2008年)
ビル・マッケンリー『Ghosts of the Sun』(2006年)

●ダニー・マッキャスリン
ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』(2016年)
デイヴィッド・ボウイ『★』(2015年)
ダニー・マッキャスリン@55 Bar(2015年)
ダニー・マッキャスリン『Fast Future』(2014年)
ダニー・マッキャスリン『Casting for Gravity』(2012年)
フローリアン・ウェーバー『Criss Cross』(2014年)
マリア・シュナイダー『The Thompson Fields』(2014年)
マリア・シュナイダー『Allegresse』、『Concert in the Garden』(2000、2001-04年)

●ライアン・ケベール
ライアン・ケベール&カタルシス『Into the Zone』(2014年)


趙暁君『Chinese Folk Songs』

2017-06-10 12:56:17 | 中国・台湾

趙暁君『Chinese Folk Songs』(AKUPHONE/原盤FOUR SEAS RECORDS、1968年)を聴く。

それにしてもこのようなレコードを復刻するなんてフランス恐るべし。このAKUPHONEは、その後、江利チエミだとかスリランカ音楽のコンピレーションだとかを出していて、奇特なレーベルである。わたしはアナログLPを入手した。歌詞が英訳されていて仕事が丁寧。

趙暁君(Zuao Xiao Jun)は1948年生まれ。ライナーノーツによればたいへんに苦労した人生を送った歌手のようだ。19歳のときに家族の問題で大学に通うことを諦め、台北のキャバレーで歌い始めた。流行歌は外省人の持ち込む中国や香港のものが多かったが、50年代には台湾自身の歌が増えてきたという。その後シンガポールに移り、そこでも人気を博した。それゆえ1962年からスタートした台湾でのテレビ放送でも声がかかりヒットするが、人間関係に苦しめられた。そのためか、笑わない「氷の女王」とも呼ばれた。25歳で結婚するが母親からの金の無心に悩まされアメリカに逃げるも、夫の交通事故もあり破局。また台湾で母親の借金を返済する日々。2回目の結婚は相手の女道楽が過ぎて失敗。家を売ろうとしたが失敗して借金。声を失いもした。18年間の暗闇を経て、キリスト教への帰依で自身を取り戻した、とある。

歌は底抜けに明るいようなものではないが、そこまでの闇を感じさせるものではない。もちろん中国風の声を高く上げるような歌唱がありつつ、微妙に弱く、微妙にヴィブラートがかかった歌声はとても良い。サウンドも面白くて、台湾のフォークソング「Mountain Girl」では台湾内でのオリエンタリズム的な野蛮な声が挿入されたり、モンゴルのフォークソング「Little Cowherd」もまた偏ったイメージを出してくる。今となっては奇抜でサイケデリックで愉しいものだ。ジュディ・オング「たそがれの赤い月」のカヴァーもあり、それはジュディよりも声の力が押し出されている感じ。

>> AKUPHONEのサイト(「たそがれの赤い月」の動画がある)


マリア・シュナイダー『Allegresse』、『Concert in the Garden』

2017-06-10 10:21:48 | アヴァンギャルド・ジャズ

さて今日はじめてマリア・シュナイダー・オーケストラを観に行く前に、気持ちを盛り上げようと2枚ほど聴く。

『Allegresse』(Artist Share、2000年)

Maria Schneider (conductor)
Tim Ries (ss, cl, fl, alto fl)
Charles Pillow (as, ss, cl, fl, piccolo, oboe, English horn)
Rich Perry (ts, fl)
Rick Margitza (ts, ss, fl)
Scott Robinson (bs, bass sax, cl, bcl, fl, alto fl)
Tony Kadleck (tp, piccoro tp, flh)
Greg Gisbert (tp, flh)
Laurie Frink (tp, flh)
Ingrid Jensen (tp, flh)
Dave Ballou (tp, flh)
Keith O'Quinn (tb)
Rock Ciccarone (tb)
Larry Farrell (tb)
George Flynn (bass-tb)
Ben Monder (g)
Frank Kimbrough (p)
Tony Scherr (b)
Tim Horner (ds)
Jeff Ballard (perc)

細やかなアレンジで次々に楽器の音が重ね合わされてゆく。それなのにまったくヘヴィではない不思議さだ。油絵のように塗りこめていく感覚ではなく、透過性のある絵の具で色がどんどん複雑になりセンサーが悦ぶ感覚。ギターのベン・モンダーの音が効果的に使われているからこその柔らかさでもあるのかな。

ソロイストはグレッグ・ギルバート、リック・マーギッツァ、フランク・キンブロウ、イングリッド・ジェンセン、リッチ・ペリー、ティム・リース、チャールス・ピロウ、ベン・モンダー、スコット・ロビンソン。確かにジェンセンのトランペットなんてパワーで攻めず実に柔らかいし、ここにいることがしっくりくる。またソロイストとして書かれていないが、ジェフ・バラードのパーカッションも気持ちが良い。

『Concert in the Garden』(Artist Share、2001-04年)

Maria Schneider (conductor)
Charles Pillow (as, ss, cl, fl, alto fl, oboe, English horn)
Tim Ries (as, ss, cl, fl, alto fl, bass fl)
Rich Perry (ts, fl)
Donny McCaslin (ts, ss, cl, fl)
Scott Robinson (bs, fl, cl, bcl, contrabass cl)
Tony Kadleck (tp, flh)
Greg Gisbert (tp, flh)
Laurie Frink (tp, flh)
Ingrid Jensen (tp, flh)
Keith O'Quinn (tb)
Rock Ciccarone (tb)
Larry Farrell (tb)
George Flynn (bass tb, contrabass tb)
Ben Monder (g)
Frank Kimbrough (p)
Jay Anderson (b)
Clarence Penn (ds)
Jeff Ballard (cajón, quinto cajón)
Gonzalo Grau (cajón)
Gary Versace (accordion)
Luciana Souza (voice, pandeiro)
Pete McGuinness (tb)
Andy Middleton (ts)

これはまた随分と雰囲気が異なる。タイトル通り、まるで緑に囲まれた中庭で音楽を聴くようなオープンで爽やかな感覚がある。

ここには、ゲイリー・ヴェルサーチのアコーディオンやルシアーナ・ソウザの囁くようなヴォイスが貢献している。また、全般にベン・モンダーのギターがサウンドを柔らかくし、フランク・キンブロウのピアノが多数埋め込まれたスワロフスキーのように光を取り込み屈折反射させている。

ソロイストは、ベン・モンダー、フランク・キンブロウ、ゲイリー・ヴェルサーチ、リッチ・ペリー、イングリッド・ジェンセン、チャールス・ピロウ、ラリー・ファレル、ダニー・マッキャスリン、グレッグ・ギルバート。マッキャスリンはハードに攻めるかと思いきや、丹念に音を選んでいてこれもまた良い感じ。

●マリア・シュナイダー
マリア・シュナイダー『The Thompson Fields』(2014年)


ヨナス・カルハマー+エスペン・アールベルグ+トルビョルン・ゼッターバーグ『Basement Sessions Vol.1』

2017-06-10 08:55:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

ヨナス・カルハマー+エスペン・アールベルグ+トルビョルン・ゼッターバーグ『Basement Sessions Vol.1』(clean feed、-2012年)を聴く。

Jonas Kullhammar (ts, bs)
Torbjörn Zetterberg (b)
Espen Aalberg (ds)

カルハマー目当てなのではあったが、トリオとしても本当に良い。重さを保持したまま高速でインプロを繰り広げるサックストリオ、バリトンのソロからドラムスとベースとが入って爆走を始めるさまは、まるで、ジョン・サーマン、バール・フィリップス、ステュ・マーティンの『The Trio』である。

カルハマーのテナーもバリトンも同じテイストで、何気筒を積んでいるのか、鉄の塊を自在に操るドライヴァーのようだ。2012年ということは、カルハマー、ゼッターバーグ、アールベルグの3人とも30代半ばということか。いやこれはナマで観たい。

ライナーノーツには、clean feedレーベルのペドロ・コスタ氏が、このようにメインストリームのジャズと視られかねない作品を出したことに際して「authenticとは何か?」と熱く書いていて面白い。

●ヨナス・カルハマー
ピーター・ヤンソン+ヨナス・カルハマー+ポール・ニルセン・ラヴ『Live at Glenn Miller Cafe vol.1』
(2001年)


チャーネット・モフェット『Music from Our Soul』

2017-06-10 00:01:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

チャーネット・モフェット『Music from Our Soul』(Motema Music、2014-15年)を聴く。

Charnett Moffett (b)
Pharoah Sanders (ts)
Stanley Jordan (g)
Cyrus Chestnut (p, key)
Jeff "Tain" Watts (ds)
Victor Lewis (ds)
Mike Clark (ds)

何を隠そうチャーネット・モフェットが好きである。90年代に、ケニー・ギャレットらとのバンド「G.M.Project」を旧ブルーノート東京で観たときにそのテクニシャンぶりにビビって以来、好きである。

本盤でも、そのベース巧者ぶりをいかんなく発揮している。巧いのでどや顔を見せる必要すらない。

ところが、メンバーも、肝心のサウンドも、90年代のまんまである。スタンリー・ジョーダン、サイラス・チェスナット、ジェフ・テイン・ワッツ、そしてスーパーレジェンドのファラオ・サンダース。みんな昔のまんまである。いやそれでもいいのだが、なんら刺激的なところがないのだ。時代遅れは悪いことでもなんでもないが、やはりこれは時代遅れである。

●チャーネット・モフェット
デイヴィッド・マレイ+ジェリ・アレン+テリ・リン・キャリントン『Perfection』(-2015年)
マルグリュー・ミラー逝去、チャーネット・モフェット『Acoustic Trio』を聴く