仕事で疲れて夕食を取ろうと思い、ついふらふらと神保町のすずらん通りまで歩いていった。キッチン南海が目的地である。檜画廊の前を通りがかると、なんと、小林裕児さんの個展。幸運だ。
小林さんの絵は、齋藤徹さんのCDのジャケットなどで知っている。ただ、テツさんの演奏とともに繰り広げるライヴ・ペインティングには、残念ながら行く機会がなかった。印刷ではなく本物の作品を観るのもはじめてである。
絵は当然ながらCDよりも大きく、見ごたえがある。ファンタジックでありながら、時間が止まった空間のような奇妙な静けさもあり、人の運命をただただ受け容れる怖さもある。生き物が生き物であることの不思議さもある。疲れていたこともあって沁みるような気持ちになり、画廊を3周してしまった。地底世界に湖があったり、少女が鳥を抱きかかえて歩いていたり。
真ん中のテーブルには、ミクストメディアの小さな絵がぎっしりと描きこまれたモレスキンなどのノートが何冊も。時間がなかったので3冊ほどぱらぱらと観たくらいだが、日常とこの不思議世界とをつなげてくれるようで嬉しくなってしまう。
2015年に多摩美術大学で開かれた個展のカタログを、千円で買って帰った。紐解いてみると、「浸水の森」なんてデルヴォーのようでありつつも、それよりも親しみがある。頭から落ちていく人たちも、顔がふたつある人たちも、動物も、好きになる。
巻末には齋藤徹さんらとのコラボレーションの写真が掲載されている。あっ、アメリカではハナ・ジョン・テイラーと共演している!!マラカイ・フェイヴァース最晩年の作品『Live at Last』でテナーを吹いていた、シカゴの人である。
●小林裕児
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)