Sightsong

自縄自縛日記

ジュリアン・バーンズ『人生の段階』

2017-06-12 22:31:34 | ヨーロッパ

ジュリアン・バーンズ『人生の段階』(新潮クレスト・ブックス、原著2013年)を読む。

19世紀、気球に乗って旅をしようとする人たち。写真家のナダールも女優のサラ・ベルナールもいる。かれらはやはりどこかブチ切れていて、文字通り、地に足が着いていない。人間が跳躍できる以上の動きを体験してしまい、感覚もふわふわする。恋愛もふわふわしている。

それはそれとして、突然、バーンズ自身の物語へと話が移る。長年一緒に暮らした妻が急死してしまった。準備もなにもあったものではない。感覚も行動様式も、気球に乗ってしまった人間と同様であり、それまでの経験など何にもならない。周囲の言動に戸惑い、怒りを覚え、適応ができない。それを納得するための行動や努力自体が目的を失い、無意味なものになる。

バーンズの独白とも自己分析とも言えるような語りは怖ろしい。悲しみとは何なのか。報酬を求めての心の動きか、虚栄か。もうやめてくれと言いたくなるような言葉が次々に提示される。

「わたしはあなたより高くから落ちた。内臓の飛び散り具合を見てごらんなさい」

もちろんこれは皮肉やアフォリズムを集めたものではない。あらゆる罠と共存しながら絞り出した作家の言葉である。

解説によれば、『Pulse』『終わりの感覚』も、この体験の最中に書かれたものであった。それゆえの迫力だったのか。

●参照
ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』(2011年)
ジュリアン・バーンズ『Pulse』(2011年)
ジュリアン・バーンズ『フロベールの鸚鵡』(1984年)


ミシェル・ドネダ+エルヴィン・ジョーンズ

2017-06-12 21:42:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

ミシェル・ドネダとエルヴィン・ジョーンズとはいちど共演していて、それが、『Vol Pour Sidney (Aller)』(Nato、1991-92年)というアルバムに1曲収録されている。

Elvin Jones (ds)
Michel Doneda (ss)

シドニー・ベシェに捧げられたアルバムであり、他にも、チャーリー・ワッツ、ロル・コクスヒル、エヴァン・パーカーの共演だとか、スティーヴ・ベレスフォードとハン・ベニンクとのデュオだとか面白いものはいろいろあるのだが、わたしにとってはとにかくこの1曲「Egyptian Fantasy」である。

ここで、ドネダは、ベシェへの敬意のためか、あるいは「ジャズ」そのものであるエルヴィン・ジョーンズへの敬意のためか、朗々とヴィブラートを効かせてソプラノで哀愁溢れる旋律を吹く。しかしときどき横に逸れて、ドネダらしく、息が身体と化して、痙攣と濁りとを聴かせてくれるのが嬉しい。一方のエルヴィン・ジョーンズはいつも通りの悠然たるタイコである。噛み合っているのかどうかよくわからない。

齋藤徹さんによれば、エルヴィン・ジョーンズはこのセッションでドネダを尊敬していたとのことである。エルヴィン亡き今想像してもどうしようもないことだが、共演をもっと積み重ねてくれていたらどうなっていただろう。

●ミシェル・ドネダ
ミシェル・ドネダ『Everybody Digs Michel Doneda』(2013年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
ロル・コクスヒル+ミシェル・ドネダ『Sitting on Your Stairs』(2011年)
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ミシェル・ドネダ『OGOOUE-OGOWAY』(1994年)

●エルヴィン・ジョーンズ
エルヴィン・ジョーンズ(1)
エルヴィン・ジョーンズ(2)
チコ・フリーマン『Elvin』(2011年)
ベキ・ムセレク『Beauty of Sunrise』(1995年)
ソニー・シャーロック『Ask the Ages』(1991年)
エルヴィン・ジョーンズ+田中武久『When I was at Aso-Mountain』(1990年)
エルヴィン・ジョーンズ『Live at the Village Vanguard』(1968年)、ジョージ・コールマン『Amsterdam After Dark』『My Horns of Plenty』(1978、1991年)
アルバート・マンゲルスドルフ『A Jazz Tune I Hope』、リー・コニッツとの『Art of the Duo』(1978、1983年)
高橋知己『Another Soil』(1980年)
菊地雅章+エルヴィン・ジョーンズ『Hollow Out』(1972年)
フィニアス・ニューボーンJr.『Back Home』(1969年)
藤岡靖洋『コルトレーン』、ジョン・コルトレーン『Ascension』(1965年)
ロヴァ・サクソフォン・カルテットとジョン・コルトレーンの『Ascension』(1965、1995年)
マッコイ・タイナーのサックス・カルテット(1964、1972、1990、1991年)
『Stan Getz & Bill Evans』(1964年)
ソニー・シモンズ(1963、1966、1994、2005年)