Sightsong

自縄自縛日記

喜多直毅クアルテット@求道会館

2017-06-11 09:06:41 | アヴァンギャルド・ジャズ

本郷の求道会館に足を運び、喜多直毅クアルテット(2017/6/10)。

17歳のときに受験のために宿泊した旅館はこのあたりだったが、さてお隣の古い宿か別のところか、記憶にない。本当はもっとコンサート前に久しぶりに界隈を散歩したかったのだが、結局はぎりぎりに到着してしまった。

喜多直毅クアルテット: 
Naoki Kita 喜多直毅 (vln, music) 
Satoshi Kitamura 北村聡 (bandoneon) 
Shintaro Mieda 三枝伸太郎 (p) 
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)

このグループは、途中のMCなし、拍手なし、複数の曲をメドレーで一気呵成に1時間演奏するスタイルである。

最初の「鉄条網のテーマ」は、これから起きることを恐れ暗示するかのように静かに始まった。ピアノがテンポを刻み、やがて、ヴァイオリン、そしてバンドネオン。まるで咽び泣く人間のようである。

「燃える村」。哀しさのヴァイオリン、バンドネオンが入り、コントラバス、ピアノとともに、それぞれの想いが音の波となって層を成してゆく。この繰り返しによって、走馬灯のような記憶を幻視した。哀しみのなかの悦もあった。

「疾走歌」。ピアノが入ってくる瞬間にぞくりとするものを感じる。疾走するヴァイオリン、ゆったりとしたバンドネオンとピアノとが入れ代わり立ち代わり物語を諄々と語るようでもあった。コントラバスの刻みが、不可逆な時間を体現していた。ドラマはスパイラルを描き苛烈な運命の方へと向かっていった。

「峻嶺」。かすかな低音が続き、不安を煽られる。その中でピアノが小さな存在の人間のように動きを示し、そしてまたヴァイオリンによる物語。それは諦念のようにも感じられた。

「夏の星座」。大きなものを前にして悟ったような旋律、そのもとで各人が静かに音を重ねてゆく素晴らしさがある。コントラバスの弓弾きがとても優しい。最後に、ヴァイオリンにより流れ星があらわれた。

アンコール、「残された空」。ファーストアルバム『Winter in a Vision』で最後を締めくくる曲であり、またこれまでのコンサートでも最後に演奏されることが多かった。懐かしいバンドネオンの旋律に、ピアノが光を置いてゆく。声をふりしぼるように震えて歌うヴァイオリン。やはりぐっときて、少し涙腺がゆるんでしまった。

会場の求道会館は、浄土真宗の古い建物であり、東京都の指定有形文化財らしい。演奏者の動きと聴く者の動きがそのたびにかすかな軋みの音を発し、それがまた全体の響きとともに音楽を形成した。

●喜多直毅
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)