有楽町のヒューマントラストシネマで、ジム・ジャームッシュ『パターソン』(2016年)を観る。
かれはバスの運転手であり、自分だけのための詩人でもある。6時過ぎに起きて、シリアルを食べて、仕事に行き、帰宅して傾いた郵便受をもとに戻し、妻とおしゃべりし、犬を散歩させるついでにバーでビールを飲み、帰って寝る。妻は家の内装や自分のファッションやカップケーキ作りやギターの練習に熱中し、かれをとても大事にする。
映画はかれらの1週間を追う。日常はつまらぬ日々ではない。かれにとってはことばをノートに書きつけることが一期一会である。運転している間も、バスの乗客が、ボクサーや女の空自慢やアナーキズムについて、毎日ちがう話をする。バーでも毎日妙なことが起きる。それらがたまらなくおかしい。
「平凡な日常こそが素晴らしい」などということではない。毎日のなんということもない出来事が、縁となって別の縁につながっていく。バス停で知り合った小さな詩人のことばが、自宅に架けられた絵とシンクロしたり。ノートが失われた直後に、別の詩人がノートをもってあらわれたり。それは実は本当の世界にほかならない。
●ジム・ジャームッシュ
ジム・ジャームッシュ『リミッツ・オブ・コントロール』(2009年)