Sightsong

自縄自縛日記

齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術

2018-01-08 21:51:59 | アヴァンギャルド・ジャズ

成城学園前にできたばかりのアトリエ第Q藝術にはじめて足を運んだ(2018/1/8)。

Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)
Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
Chikako Kaido 皆藤千香子 (dance)

第1部は齋藤徹・喜多直毅デュオ。

はじまりは、コントラバス、ヴァイオリンそれぞれの音の領域がある。擦る、振る、叩く、つねる(つねらないか)、はじく。多様な手を使ってその音領域が重ね合わされる。喜多さんはまるで宇宙と交信するかのように外部との接点を音にし、また、テツさんのコントラバスからはわらべ歌のような旋律も聴こえる。

目の前の世界からなにかをたぐりよせようとするような、手段としての引っかき合い。ふたりの倍音とノイズはときに親しみやすく、ときに人の手の届かぬ音にもなってしまう。喜多さんが小さな振幅を繰り返し、それにより大きなうねりを創り出す。テツさんは楽器の違いもあり、その変動のサイズが異なるところをみせる。ひとしきりこれらの離合があって、擦りのアンサンブルに至った。やや狂った感覚もあった。

このあたりでテツさんの弓が2本、床に落ちた。しかしそれも音楽の一部となったことは愉快な発見だった。喜多さんが激しく動き、テツさんは敢えてたたらを踏む。このふるまいや音ももちろん音楽となった。

テツさんのコントラバスは、指や2本の棒で激しくはじくたびに、ミクロな塵芥が自分自身の存在に気付いたかのように放出されるものに聴こえた。

第2部は皆藤千香子さんも入ってのトリオ。

テツさんが空気を一変させる意図があってなのか、はじめに大きな音を出し漸減させた。喜多さんのヴァイオリンは対照的にかすかな音。しかしふたりの音は連続的に変化してゆき、素晴らしい倍音を創出する。その中でテツさんが左手の指でときどき弦をはじく。

しばらくじっとしていた皆藤さんが、横向きにつつつとサウンドの領域内に入ってきた。動きは動きそのものに意味があるものだと思うが、それにしても、観る私(たち)は、そこにドラマ性を見出してしまう。

生命の発散もあった。皆藤さんが両手で顔を挟み、そのまま前に突き出す動きからは、不可逆の人生を生きることに対する葛藤のようなものを感じた。鳥のような大きな飛翔もあった。枷に身体の自由を奪われた中での動きを感じさせるものもあった。そして、テツさん、喜多さんのサウンドと相互に侵入するかのような動きもあった。魅せられてしまった。

ところで、このアトリエ第Q藝術は、2016年末に明大前のキッドアイラック・アートホールがなくなり、その精神を継ぐような形で作られたスペースである。なんと改造前は、高山辰雄のアトリエであったという。

天井が高く、木の壁と木の床であるためか響きがとても柔らかい。コンクリート内装のキッドアイラックとはまた性質が異なる音の良さである。今後のイヴェントが楽しみだ。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、XF35mmF1.4、Nikon P7800

●齋藤徹
2017年ベスト(JazzTokyo)
即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 

●喜多直毅
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)

●皆藤千香子
即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)


Zhao Cong、すずえり、滝沢朋恵@Ftarri

2018-01-08 19:24:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarri(2018/1/7)。Leo Okagawaさんもいらしていて、印象を互いに呟きながら観た。

■ 滝沢朋恵

始まるでもなく始まった。ターンテーブルや何かの機械をアンプにつなぎ、まるで日常生活の延長であるかのように、思いついては音を出したり大きくしたり絞ったり。洟をかんだり。そしてバスドラム用のペダルさえも遊びの道具と化した。一応は終わりと宣言したのではあるが、終わるともなく終わった。

■ すずえり

ピアノ脇のテーブル上にはレコーダーや小さなスピーカーや時計やケーブルやクリップなどが雑然と置かれている。すずえりさんは毛糸を取り出し、片方にはピアノの内部、片方にはスプーンがぶら下がり、特定の鍵盤を叩くとそれが金属のボウルをヒットする。

また、大きなやじろべえには小さなミラーボールや金属板やなにやら変なオーナメントやレコーダーがぶら下げられ、小さな青いプロペラで寂しい音を発しながらぶいーんぶいーんと回転する。光がそれらを通り抜け、天井や床が詩的な光のフラグメンツで明滅する。

なんという不完全さ、なんという中途半端な自動制御と人の介入。そういったことを試し、次につなげ、他とのバランスを取り、そしてどうやらうまくいったらしいことの嬉しさというのか、一緒にこの過程につき合わされてしまうことの諦めと悦びというのか。

■ Zhao Cong

北京出身のZhao Congさん。昨年は観客として複数回遭っただけなので、今回パフォーマンスを観ることができてうれしい。

彼女はテーブルを前に座り、コントローラーと、丸い容器に入って光を発するものに、静かに手を加えてゆく。そのひとつは物理的な衝撃を増幅するようにできているようで、それに粉を振りかけたりもしていた。朦朧として、時間の経過がわからなくなる。

この6月には、昨年は同行していたパートナーのZhu Wenboさんも一緒に再来日するとのこと。ところで自分にとっては、北京でこのような活動をしていることが驚きであり、昨年、ふたりにその様子を訊いてみた。曰く、あまり活動の場所はなく(ギャラリーでもサウンドへの関心は薄い)、自宅やスタジオでいろいろやっているそうである。

そして3人でのセッション。最初から最後まで奇妙な時間が流れていた。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●すずえり
ファビオ・ペルレッタ+ロレンツォ・バローニ+秋山徹次+すずえり@Ftarri(2017年)
すずえり、フィオナ・リー『Ftarri de Solos』(2017年)

●滝沢朋恵
網守将平+岡田拓郎、角銅真実+滝沢朋恵、大城真+川口貴大@Ftarri(2017年)


永武幹子+加藤一平+瀬尾高志+林ライガ@セロニアス

2018-01-08 11:23:02 | アヴァンギャルド・ジャズ

東中野のセロニアス(2018/1/7)。注目の面々なので予約までして駆けつけた。永武幹子さんはインフルエンザが治ったばかりで今年はじめての演奏とのこと。

Mikiko Nagatake 永武幹子 (p)
Ippei Kato 加藤一平 (g)
Takashi Seo 瀬尾高志 (b)
Raiga Hayashi 林ライガ (ds)

インプロ的なはじまりから、「After All」(ビリー・ストレイホーン)。「Stardust」を思わせもするがこれもストレイホーンだった。林さんは最初はマレットを使うがやがてスティックに持ち替え、いきなりフルスロットル。柔軟というよりも硬くばしばしと押すドラミングである。ギターがエロチックでもサイケデリックでもあり、瀬尾さんのベースは重い。林さんのぎらぎらとしたアイコンタクトがこちらにも伝わってくる。

次に「Brilliant Corners」(セロニアス・モンク)。モンクは自分自身の演奏時には、スピードを厳格に決めていたという。つまりこのゆったりとしたメロディの流れ方もモンク固有のものであって、それがマジックとなって演奏にも影響する。崩壊してはふたたび走りはじめる、その繰り返し。瀬尾さんのベースには重く跳躍する感覚があり、ここに加藤さんのギターがジョーヘンを思わせるホーンライクな介入をみせた。

「ベオ・カリーニョ」(古澤良治郎)。ピアノの美しいイントロにベースが伴い、やがてその立場を逆転させる。ここでのドラムスのパルスもとても重い。ピアノトリオを中心とした時間のあと、加藤さんのギターが、太い地声で艶歌でもうたうように入ってきて演奏を牽引した。腰も浮かせてエクスタシー感あふれるソロだった。それにしてもこの重量級メンバーのなかで、永武さんのピアノは知的に浮かび遊んでいるように聴こえる。

セカンドセットもまたインプロ的にはじまった。ピアノの模索、ベースとギターの呼応。林さんは背後で嬉しそうに次の展開を考えている模様。そして全員がエネルギー強度の高い領域で、たいへんにカオティックながら秩序もつど創出されるような素晴らしい演奏をみせた。演奏は瀬尾さんのアルコにより収斂しつつ、次の曲へ。林さんのマレットからブラシへの転換が見事にみえる。また瀬尾さんのベースは全体を包み込むような広がりがある。

そして「We See」のあと、アンコールが「The Lord Is Listenin' To Ya, Hallelujah」(カーラ・ブレイ)。「自由な気持ちで」と示し合わせた通り、おのおのの音を発展させる面白さがあった。林さんのドラミングには、この曲に限っては、森山威男の得意技が重なってみえたがどうだろう。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●永武幹子
永武幹子+瀬尾高志+竹村一哲@高田馬場Gate One(2017年)
酒井俊+永武幹子+柵木雄斗(律動画面)@神保町試聴室(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)
永武幹子+瀬尾高志+柵木雄斗@高田馬場Gate One(2017年)
MAGATAMA@本八幡cooljojo(2017年)
植松孝夫+永武幹子@北千住Birdland(JazzTokyo)(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)

●加藤一平
竹内直+加藤一平@セロニアス(2017年)
鈴木勲セッション@新宿ピットイン(2014年)