入谷のなってるハウスで、デイヴ・スキャンロン、吉田野乃子日本ツアーの2日目(2018/1/22)。この日、関東には午後から雪が降り始め、夜にはかなり積もっていた。そのため電車やバスがストップして、共演予定の不破大輔、DJ sniffのおふたりは来ることができず、デュオとなった。吉田野乃子、デイヴ・スキャンロン(野乃子さんはデビちゃんと呼んでいる)はペットボトル人間のメンバーでもある。
Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (as)
Dave Scanlon (g, laptop, vo)
ファーストセット、最初の30分ほどは吉田野乃子ソロ。ハコのひとりひとりと話をする野乃子さんのMCはすごくフレンドリーなのだが、演奏となると雰囲気は一変する。
冒頭にインプロ、続けて瀬戸内の無人島をイメージしたという「Desert Island」。音量が最初は大きかったということもあるけれど、この迫力にはやはり気圧される。こうなると、近作について抒情が云々と言ってしまうと弱弱しくセンチメンタルな感じかと誤解されそうだが、実際のところその正反対の強度。途中からルーパーも使い、アルトだけでなくハコ全体が三次元で共鳴する。
次に、北海道のことばを使った「Uru-kas」。手拍子からはじめ、それがすぐにルーパーを通じてビートと化し、さらにハーモニーが作り出される。このクラウドの中から、野乃子さんのアルトがピキピキピキと周囲に亀裂を入れながら飛び出てくることの快感といったらない。
3曲目は、妹夫妻にささげたという「Taka 14」。低音でエンジンをふかす感覚、そのサウンドのフラグメンツが四方に散るかと思う前にまた収斂し、加速的にドライヴする。野乃子さんはマウスピースを外し、バードコールのように使いもした。たいへんなスピード感である。
次にデュオ、スキャンロン作曲の「パン屋」。ギターのリフの繰り返し、その濁りとアルトの濁りとが重なってゆく。面白いのは、突き進むエンジンの稼働状況つまり負荷を常に微妙に力技でコントロールしている点であり、微妙なもたつき、微妙な遅れ、微妙なタメ、全体としてのスピードの調整、そんなものがまるでチキンレースのように続く。最後はふたりがきりもみを描くようにして終了。あまりにも疲れる演奏だったのか、野乃子さんはステージ上で倒れこんだ。
セカンドセット、スキャンロン。持続と執拗な繰り返しがエルメートを思わせて面白いギターソロ。次に前に出てきて座り、奥に引っ込んだようなギター音とともに味のある歌。断片、断片から風景が見えてくるようだった(cable to the sky、なんて)。そして今度はPCとともにかれのラップ、これはストリートではなく都会の住民の感覚(the shape of box I'm livin'とか言っていたように)。最期にまたギターソロ、このアンビエントな音色と繰り返しと逸脱が現代の悪夢のように感じられた。
再びデュオ。アルトとPCとが倍音でハモったり、低解像度の昔のインベーダーゲームのような音で遊んだり、哀しさをたたえたドイツロック的であったり、またアルトとPCがお互いにドローンのように音を持続させ、その中からまた抒情が突き抜けてきた。
Fuji X-E2、XF60mmF2.4
●参照
トリオ深海ノ窓『目ヲ閉ジテ 見ル映画』(2017年)
『トリオ深海ノ窓 Demo CD-R』、『Iwamizawa Quartet』(2017、2007年)
乱気流女子@喫茶茶会記(2017年)
吉田野乃子『Demo CD-R』(2016年)
吉田野乃子『Lotus』(2015年)
ペットボトル人間の2枚(2010、2012年)