Sightsong

自縄自縛日記

デイヴ・スキャンロン+吉田野乃子@なってるハウス

2018-01-23 23:06:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウスで、デイヴ・スキャンロン、吉田野乃子日本ツアーの2日目(2018/1/22)。この日、関東には午後から雪が降り始め、夜にはかなり積もっていた。そのため電車やバスがストップして、共演予定の不破大輔、DJ sniffのおふたりは来ることができず、デュオとなった。吉田野乃子、デイヴ・スキャンロン(野乃子さんはデビちゃんと呼んでいる)はペットボトル人間のメンバーでもある。

Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (as)
Dave Scanlon (g, laptop, vo)

ファーストセット、最初の30分ほどは吉田野乃子ソロ。ハコのひとりひとりと話をする野乃子さんのMCはすごくフレンドリーなのだが、演奏となると雰囲気は一変する。

冒頭にインプロ、続けて瀬戸内の無人島をイメージしたという「Desert Island」。音量が最初は大きかったということもあるけれど、この迫力にはやはり気圧される。こうなると、近作について抒情が云々と言ってしまうと弱弱しくセンチメンタルな感じかと誤解されそうだが、実際のところその正反対の強度。途中からルーパーも使い、アルトだけでなくハコ全体が三次元で共鳴する。

次に、北海道のことばを使った「Uru-kas」。手拍子からはじめ、それがすぐにルーパーを通じてビートと化し、さらにハーモニーが作り出される。このクラウドの中から、野乃子さんのアルトがピキピキピキと周囲に亀裂を入れながら飛び出てくることの快感といったらない。

3曲目は、妹夫妻にささげたという「Taka 14」。低音でエンジンをふかす感覚、そのサウンドのフラグメンツが四方に散るかと思う前にまた収斂し、加速的にドライヴする。野乃子さんはマウスピースを外し、バードコールのように使いもした。たいへんなスピード感である。

次にデュオ、スキャンロン作曲の「パン屋」。ギターのリフの繰り返し、その濁りとアルトの濁りとが重なってゆく。面白いのは、突き進むエンジンの稼働状況つまり負荷を常に微妙に力技でコントロールしている点であり、微妙なもたつき、微妙な遅れ、微妙なタメ、全体としてのスピードの調整、そんなものがまるでチキンレースのように続く。最後はふたりがきりもみを描くようにして終了。あまりにも疲れる演奏だったのか、野乃子さんはステージ上で倒れこんだ。

セカンドセット、スキャンロン。持続と執拗な繰り返しがエルメートを思わせて面白いギターソロ。次に前に出てきて座り、奥に引っ込んだようなギター音とともに味のある歌。断片、断片から風景が見えてくるようだった(cable to the sky、なんて)。そして今度はPCとともにかれのラップ、これはストリートではなく都会の住民の感覚(the shape of box I'm livin'とか言っていたように)。最期にまたギターソロ、このアンビエントな音色と繰り返しと逸脱が現代の悪夢のように感じられた。

再びデュオ。アルトとPCとが倍音でハモったり、低解像度の昔のインベーダーゲームのような音で遊んだり、哀しさをたたえたドイツロック的であったり、またアルトとPCがお互いにドローンのように音を持続させ、その中からまた抒情が突き抜けてきた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●参照
トリオ深海ノ窓『目ヲ閉ジテ 見ル映画』(2017年)
『トリオ深海ノ窓 Demo CD-R』、『Iwamizawa Quartet』(2017、2007年)
乱気流女子@喫茶茶会記(2017年)
吉田野乃子『Demo CD-R』(2016年)
吉田野乃子『Lotus』(2015年)
ペットボトル人間の2枚(2010、2012年)

 


Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス

2018-01-23 00:29:29 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2018/1/21)。

Wavebender:
Rieko Okuda (p)
Antti Virtaranta (b)
Chris Hill (ds, laptop)

Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)
Chihaya Matsumoto 松本ちはや (perc)

ファーストセット、照内・松本デュオ。

パーカッションを手で弄ぶ、一方では音を選んでは鍵盤を1本の指で叩く、そうしながらじわりと音世界が導入されていく。松本さんは鐘がいくつも結わえられた紐をたぐり、打楽器をそれにより侵食し、照内さんは半覚醒でシンクロを狙う。パーカッションのピークに向けての準備は終わらない。爪でひっかき、指の腹で叩き、スティックで繊細・スピーディーにシンバルを鳴らす。そして駆け始めた。松本さんはまるで乗馬しているように右足の踵でカホンを打ちつつ疾走し、飛翔もするのだが、その音は、常にこちらの想定を超えた奥にまで届き、そのたびに驚かされる。野蛮といってもよいほどである。

一方の照内さんは叩きつけるような和音もあり、再び音選びを意図的に狭めていく動きもあり、構造を作り出しまた壊す両方のアクションを繰り出した。吊り下げられたベルによる満天の星空のような広がりがあり、それが乗り移ったようにピアノも残響を作り出した。松本さんのカホンとパーカッション、照内さんのピアノもまた強度を高めていった。演奏はエネルギー密度の高いところで終わった。

このデュオは去年3回観ることができたのだが、演奏がどこかに向かって変貌しているわけではなく、毎回、場や状況や奏者の調子にもっとも影響されるようであり、常に驚きがあった。今回もまたそうだった。

セカンドセット、Wavebender。昨年来日したVOBトリオとはドラムスが異なる(ヤカ・ベルガー→クリス・ヒル)。

奥田さんは右手の爪でピアノ内部の弦を執拗に擦り、あるひとかたまりのトーンを形成する。やがて、それまで遊ばせていた左手を端っこの弦のところに置き、力を込めて、親指で弦をはじく。そして鍵盤の前に座り、やはり音の性質の幅をあらかじめ決めた上でまた別のトーンの雲を生み出しては、別の形へとシフトしていった。重低音も轟音も、きらびやかに輝く音の数々もあった。

クリス・ヒルは金属板や小さな鐘を使いながら、虫の羽音のような音からはじまり、複数の周波数によるうなりも、鼓動のようなビートも作りだした。そしてアンティ・ヴィルタランタのベースは洞窟の中のように不気味に響いた。

小さなフォルムを繰り返すことによる大きな展開はなかなかに素晴らしく、昨年のVOBトリオの演奏と同様に動かされ、拍手を止める気がしないほどだった。

サードセットは順次加わり全員での演奏。照内・松本デュオともWavebenderとも性格が異なり、少しゴージャスにさえ聴こえて愉快でもあった。 

 

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●参照
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)