Sightsong

自縄自縛日記

登川誠仁『せい小やいびーん』

2018-01-02 22:50:07 | 沖縄

登川誠仁『せい小やいびーん』(アカバナー/TERURIN RECORDS、2009-11年)を聴く。

登川誠仁(唄・三絃)
仲宗根創(唄・三絃)
前川守賢(太鼓・囃子)
よなは徹(太鼓・囃子)

これが実質的に最後のライヴであったという。場所はコザ、「てるりん祭」というストリート・ライヴであり、観客との距離は物理的にも精神的にもとても近かったのであろう。20世紀になったばかりのころに、大きなホールで登川誠仁を観たことはあるけれど、その意味ではまったくちがったものだったに違いない。

誠小さんの悠然たる間合いも、いちど聴いただけでそれとわかる独特な声も、最後まで健在だったのだな。「とぅばらーま」のあとに「六調節」ではりあげる声にはまだまだ力があった。誠小といえば速弾きであったという、その確固としたテクによる三線の音は立っており、もうひとりの仲宗根創の三線と抜きつ抜かれつ並走していて実にスリリングで気持ちがいい。

ところで、その仲宗根創という唄者の名前をはじめて知った。藤田正さんの解説によれば、かれは1988年生まれ、小さな頃から「登川誠仁のフォロワー」と話題を集めた人であるらしい。フォロワーとはいえ、また違う色艶のある歌声である。機会があればライヴを観てみたい。

●登川誠仁
『1975年8月15日 熱狂の日比谷野音』(1975年)
小浜司『島唄レコード百花繚乱―嘉手苅林昌とその時代』


磯部涼『ルポ川崎』

2018-01-02 21:04:11 | 関東

磯部涼『ルポ川崎』(CYZO、2017年)を読む。

本書を手に取ったのは、川崎という街が好きであることや話題になっていたことが理由だが、なんとなく裏面を露悪的に見せてくれるのではないかと無意識に期待していたのかもしれない。しかし、そのようなものではなく、意外にもかなり真面目なルポであり、とても面白い。

川崎には色街があり、貧困があり、不良文化があり、やくざの構造があった(ある)。かれらがその生活から脱出する手段のひとつが、ラップだった(である)。

また、在日コリアンだけでなくさまざまなルーツを持つ人たちが多く集まっている。必然的に、個々のアイデンティティを、自問自答の形でも社会的にも問いなおさざるを得ない。ヘイトデモへのカウンターも、ラップも、そういった違いの数々を吸収し、人々の連帯のツールとして機能したというのである。

ああ、なるほどなあと不意をつかれた。コミュニティの変遷史としても秀逸。


カスパー・コリン『私が殺したリー・モーガン』

2018-01-02 20:18:20 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷のアップリンクに足を運び、カスパー・コリン『私が殺したリー・モーガン』(2016年)を観る。

それほど熱心なリー・モーガンの聴き手でなかったこともあり、かれの最期はライヴハウスで「愛人に射殺された」としか認識していなかった。実際には、その印象とは逆だった。NYロウアーイーストのSlugg'sで拳銃を撃ったのは内縁の妻ヘレンであり、彼女こそがドラッグで一度はダメになっていたモーガンをサポートし、更生させ、マネジャーとしてライヴ出演などを切り盛りしていた人なのだった。事件の前から、モーガンは別の若い女性と仲良くなっていた(しかし、かれはドラッグのせいでほとんど性的に不能だった)。単純な痴情のもつれではなかったようである。

映画にはベニー・モウピンが出てきて、憧れの存在であったモーガンと共演するようになったこと、そして、事件の後ヘレンがどうなったのかまったく知らないのだと語る。実は、ヘレンは刑期を終え、保護観察の処遇でシャバに出てきていた。そして、大人向けの学校のようなところで偶然接点のあった人が、1996年に亡くなる前月にヘレンにインタビューをして、そのテープが残されていた。

ヘレンの肉声による証言は生々しい。彼女は13歳で息子を産み、もう田舎には戻らないつもりで大都市に出てきた人だった。後日、モーガンと同い年の息子にも会ったりしている。事実をもとにして再構成する物語には、哀しさも暖かさもあって、ちょっとどきどきさせられる。

それにしても、リー・モーガンという人は早熟のトランぺッターだったのだなと改めて思わされる。ディジー・ガレスピーのバンドでは、御大のソロの直後に挑戦するように鮮やかなトランペットを吹く。アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズでも実力をいかんなく発揮していた。そのときの写真や映像からそれがよくわかるし、また、表情もファッションもとても魅力的で尖っていた。ウェイン・ショーターの証言もそれを裏付けている。まさに、自らの実力をよく認識していたのであった。しかし、その後、いちどはドラッグでダメになった。そのかれを救ったのが、ヘレンだったわけである。

最後のモーガンのバンド仲間には、ベニー・モウピン、ハロルド・メイバーン、ジミー・メリット、そしてわれらがビリー・ハーパーもいた。映画にはハーパーも登場し、事件の日のことなんかを哀しそうに語る。また、モーガンと一緒にテレビ出演したときの映像も挿入されている。ハーパー・ファンも必見の映画である。


「JazzTokyo」のNY特集(2018/1/1)

2018-01-02 09:44:39 | アヴァンギャルド・ジャズ

「JazzTokyo」誌のNY特集、Jazz Right Now(2018/1/1)。

連載第28回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 サックス奏者サラ・マニングの#MeTooとジャズにおける性差別

サラ・マニングによる告発。

ジャズ界での性差という観点からは、クリフォード・アレンによる「The New York Review of Cocksucking」評もぜひ。

今回は蓮見令麻さんの連載はお休み(日本への帰郷と演奏もあったし)。

●サラ・マニング
サラ・マニング『Dandelion Clock』、『Harmonious Creature』(2009、13年)

●Jazz Right Now
「JazzTokyo」のNY特集(2017/12/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/9/30)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/9/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/8/1)

「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/5/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/4/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/3/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/2/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/10/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/9/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/8/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/6/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/5/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/4/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/1/31)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/12/27)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/11/21)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/10/12)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/8/30)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/7/26)


Sun Ship with Guevara『Live at Blue Z』(JazzTokyo)

2018-01-02 09:34:35 | アヴァンギャルド・ジャズ

Sun Ship with Guevara『Live at Blue Z』(Lodestone、2017年)のレビューをJazzTokyo誌に寄稿した。

>> #1474 『Sun Ship / Live at Blue Z』

Sun Ship with Guevara:
Takashi Namiki 並木崇 (ss, ts)
Shunji Murakami 村上俊二 (p)
Satoshi Kawasaki 川崎聡 (b)
Kazushige Kitamura 北村和重 (ds)
Yuji Guevara Takenobu 武信ゲバラ雄次 (as)

●参照
Sun Ship@大塚Welcome Back(2017年)
Sun Ship@大塚Welcome back(2016年)
清水ケンG『Bull's Eye』(1996年)


2017年ベスト(JazzTokyo)

2018-01-02 09:10:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

ウェブマガジンJazzTokyoに、2017年のベストCDとベストパフォーマンスを寄稿した。

●ディスク(国内編) 川島誠『Dialogue』

川島誠@川越駅陸橋(2017年)
むらさきの色に心はあらねども深くぞ人を思ひそめつる(Albedo Gravitas、Kみかる みこ÷川島誠)@大久保ひかりのうま(2017年)
#167 【日米先鋭音楽家対談】クリス・ピッツィオコス×美川俊治×橋本孝之×川島誠(2017年)
川島誠『Dialogue』(JazzTokyo)(2017年)
Psychedelic Speed Freaks/生悦住英夫氏追悼ライヴ@スーパーデラックス(2017年)
川島誠+西沢直人『浜千鳥』(-2016年)
川島誠『HOMOSACER』(-2015年)

●ディスク(海外編) ティム・バーン『Incidentals』

ティム・バーン Snakeoil@Jazz Standard(2017年)
イングリッド・ラブロック UBATUBA@Cornelia Street Cafe(2015年)
ティム・バーン『Incidentals』(2014年)
イングリッド・ラブロック『ubatuba』(2014年)
ティム・バーン『You've Been Watching Me』(2014年)
ティム・バーン『Shadow Man』(2013年)
チェス・スミス『International Hoohah』(2012年)
ティム・バーン『Electric and Acoustic Hard Cell Live』(2004年)
ティム・バーン『The Sublime and. Science Fiction Live』(2003年)
ティム・バーン+マルク・デュクレ+トム・レイニー『Big Satan』(1996年)
ジョン・ゾーン『Spy vs. Spy』(1988年)

●パフォーマンス(国内編) 齋藤徹×長沢哲

即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 

●パフォーマンス(海外編) MLTトリオ

ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン@バーバー富士(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+今井和雄@東松戸・旧齋藤邸(2017年)
ミシェル・ドネダ『Everybody Digs Michel Doneda』(2013年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
ロル・コクスヒル+ミシェル・ドネダ『Sitting on Your Stairs』(2011年)
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ミシェル・ドネダ『OGOOUE-OGOWAY』(1994年)
バール・フィリップス(Barre's Trio)『no pieces』(1992年)
ミシェル・ドネダ+エルヴィン・ジョーンズ(1991-92年)

それから、以下シスコ・ブラッドリーによる2017年ベスト。

>> Jazz Right Now 2017年ベストアルバム