久しぶりに根津から弥生美術館まで歩いて、滝田ゆう展。
『寺島町奇譚』などにおいて、滝田ゆうは玉の井を描いた。戦前から存在した私娼街(公娼ではない)であり、1945年3月10日の東京大空襲でほとんどが焼けたのちは、1957年の売春禁止法施行までの間、赤線の街であった。「ぬけられます」なのにぬけられない、「ちかみち」なのに近くはない街。滝田ゆうはこの街の様子を実に味わい深く描いており、原画にはまた印刷物と違う良さがある。
どれも凝視してしまうのだけれど、『怨歌橋百景』での「柳橋幻夜」というカラー画がとてもいい。柳橋は永代橋を小さくしたような鉄の橋なんだな。もちろん柳橋は花街であって(柳はそのように使われる)、橋を渡るお姐さんの頭からは鈴が付けられた小さい鋏。
この絵は安倍夜郎(『深夜食堂』の)によるセレクションのひとつ。他にも、『滝田ゆう歌謡劇場』での「ゲイシャワルツ」の最後の絵が絶賛されていて確かに沁みる。暖簾越しに燗酒を飲む芸者さんの姿が影絵のように描かれているのだが、小指が立っている芸の細やかさ。
滝田ゆうはつげ義春に影響を受けたというが、画風はずいぶん異なる。しかし、『泥鰌庵閑話』には「やはり今夜はテッテ的に飲むムードです」というセリフがあって、「テッテ的」に傍点が振ってある。これはやはりつげ義春への意識だろうね。
驚き、また、しばらく目を離せなかった作品は、「沖縄情話'71 東に星が流れるとき」。『朝日ジャーナル』1971年3月の掲載である。沖縄戦、夜、崖の横のガマ。人びとが泣き血だらけになりながら、近い者を刃物や石で殺し、あるいは手榴弾で爆死している。いわゆる「集団自決」を描いたものだ。これは丸木夫妻の「沖縄戦の図」と並べて展示する機会があって欲しいと思った。