アンドレス・ファイエル『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』において販売されていたDVDは、ボイスが1984年に来日した際の記録映像だった。
これは西武美術館での個展にあわせた来日であり、また、映像には中沢新一がインタビューしている様子が収録されている。いまとなってはセゾン文化の文脈に置かれ、またもっともらしい異文化紹介者を介していることが痛々しい。ここで中沢氏はボイスのコヨーテとの対話という、いかにも氏好みのネタを持ちだしており、また「あなたにとって植物とは何ですか」と、やはり氏のネタになりやすそうな質問を投げかけている。対話を好むボイスであれば気の効いた回答くらい何でもなかったはずだ。
それはともかく、ボイスの講演は面白い。芸術とは狭義のもの(kunst)に限定されないこと、創造にあたっては「共感-反感」といった感情に支配されてはならないこと、そのような精神(geist)が人間にとって重要なこと、などを説いている。すなわち、アクション、プラクシスは個人が社会と関わるときの形態であり、またシステムに打ち勝つためには対話が必要であり、ここに反発を受けたであろう政治という要素が入ってくるわけである。
逆に、聴衆からの質問に対し、日本では対話が不在だとして、ベルトレト・ブレヒトのような世界を対置している。この点は、当時ボイスが前提とした「経済発展を謳歌する日本」から「システムに唯々諾々と従う日本」に変貌した今も重要なことではないか。
映像の最後には、草月ホールにおけるナムジュン・パイクのピアノとボイスのヴォイス(赤いピアノを前にして)とのデュオが収録されている。さぞ面白かっただろう。録音されたレコードがあるはずで、縁があればいつか聴いてみたい。
●ヨーゼフ・ボイス
アンドレス・ファイエル『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』
ミヒャエル・エンデ+ヨーゼフ・ボイス『芸術と政治をめぐる対話』
ロサンゼルスのMOCAとThe Broad
ベルリンのキーファーとボイス
MOMAのジグマー・ポルケ回顧展、ジャスパー・ジョーンズの新作、常設展ペーター・コヴァルト+ローレンス・プティ・ジューヴェ『Off The Road』
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ