由井晶子『沖縄 アリは象に挑む』(七つ森書館、2011年)を読む。著者は元「沖縄タイムス」の記者であり、97年以降はフリージャーナリストとして沖縄を見続けている。編集者によるあとがきには「運動に少し距離を取りつつ寄り添いながら、全体を見回し論考するという立場で、定点観測のように沖縄を書き続けた人」とある。
まさに1998年から現在までの定点観測であり、当然、知っている話も知らない話もある。先日、一坪反戦地主会のYさんは、「地味だけどちゃんと書かれた良い本だよ」と薦めてくれた。実際に、通して読むことで、最近十数年間の沖縄の置かれた位置と沖縄が動いた姿とを、マクロにもミクロにも視ることができる良書である。
記憶の片隅にあったものの意識していなかった点を気付かせてくれたことがある。公有水面の埋め立てである。現在、「公有水面埋立法」では、公的な河川や海域の埋め立てに際し、知事の免許を規定している。そのため、例えば、山口県上関町の原発建設において、二井知事の埋立許可延長が問題となっているわけである。
本書によれば、小泉政権の2005年、米軍再編の中間報告推進のため、日米合意内容に基づく基本方針を閣議決定し、さらにその後、安部晋三官房長官(当時)主催の会議において、反対住民の説得が議題とされている。著者はその時、反対が激しい場合に公有水面使用許認可権を知事から政府に移す特別措置法が議題になる可能性があるものと指摘している。
まさに大田昌秀沖縄県知事(当時)が政府による米軍用地強制使用を拒否、村山富市首相(当時)が訴訟を起こし、さらに軍用地に限って知事の権限を政府に移す特別措置法(駐留軍用地特措法)を成立させたパターンの「海版」である。2006年の沖縄県知事選において糸数慶子候補が仲井眞弘多候補(当選)より優勢と予想された際にも、自公政権は糸数当選に備え、特措法制定という案を持っていたという。
そのため、2010年のシンポジウムにおいても、仲地博・沖縄大副学長が、「知事の持つ公有水面埋め立ての権限を取り上げさせないため、①政府に権限取り上げ訴訟を起こさせない、②埋め立て権限を国に移す新特措法を立法させない運動が、日米共同声明を空洞化させる道だ」と提起した、とある。辺野古においては重要な論点である。
>> 本書発売記念のトーク+レセプションの様子(大木晴子さんのブログ『明日も晴れ』)
●参照
○二度目の辺野古
○高江・辺野古訪問記(2) 辺野古、ジュゴンの見える丘
○名古屋COP10&アブダビ・ジュゴン国際会議報告会
○ジュゴンの棲む辺野古に基地がつくられる 環境アセスへの意見(4)
○『世界』の「普天間移設問題の真実」特集
○シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(1)(2)(3)(4)(5)(6)
○金城実+鎌田慧+辛淑玉+石川文洋「差別の構造―沖縄という現場」
○大田昌秀『こんな沖縄に誰がした 普天間移設問題―最善・最短の解決策』
○屋良朝博『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』
○渡辺豪『「アメとムチ」の構図』
○押しつけられた常識を覆す
○鎌田慧『沖縄 抵抗と希望の島』
由井晶子さんの写真を掲載したページにリンクさせて頂きました。
何時も素敵な記事を読ませて頂き感謝しています。
http://seiko-jiro.net/modules/newbb/viewtopic.php?viewmode=flat&order=DESC&topic_id=1755&forum=1
こちらこそ、トークとレセプションの様子を見せていただきありがとうございました。このメンバーならば是非聴きたかったところです。本書を薦めてくださったYさんの姿も。うーん残念。
(当方も記事内にリンクしました)