Sightsong

自縄自縛日記

比嘉良治『砂浜にのこり、歌にきざまれた人びとの夢・沖縄』@ギャラリー・ラファイエット

2016-10-18 07:46:49 | 沖縄

沖縄市のギャラリー・ラファイエットに足を運び、比嘉良治『砂浜にのこり、歌にきざまれた人びとの夢・沖縄』を観る。

サンゴとは不思議なもので、褐虫藻という植物プランクトンがサンゴの細胞中に棲み、光合成によるエネルギーをサンゴに与えつつ、自らは安全な場所にいてサンゴの排泄物をもらうといった関係が成り立っている(本川達雄『サンゴとサンゴ礁のはなし』)。その生命の痕跡がサンゴ礁のかけらである。

今回、写真家の比嘉良治さんが沖縄芝居の北島角子さんのことばとのコラボレーションによって創った写真集は、そのような生命の家々のポートレートなのだった。ひとつひとつを仔細に見つめると、可愛らしい生き物が笑っていたり呆然としていたりしているようで、実に面白い。この写真のことを聞いたときには首を傾げたのだが、いや見事である。

このあと、那覇のライヴハウス寓話で四方山話をしているとき、ちょうど今朝の新聞に出ていたとこの写真の話題になった。鞄の中に入っていた写真集を紐解きながら、面白いなあ不思議だなあ、と。

●参照
比嘉良治&北島角子『砂浜にのこり、歌にきざまれた人びとの夢・沖縄』出版祝賀会
比嘉良治『海と岩の語りを読む・琉球列島』
理系的にすっきり 本川達雄『サンゴとサンゴ礁のはなし』


安富祖貴子@Parker's Mood jazz club

2016-10-17 09:49:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

那覇・久茂地のParker's Mood jazz clubに足を運び、安富祖貴子のライヴ(2016/10/16)。

Takako Afuso 安富祖貴子 (vo, p)
Yoshiya Chinen 知念嘉哉 (g)
Hitomi Uratani 浦谷仁美 (b)

これまでCDを聴いて想像していた姿とは異なり、安富祖さんは激しくスピーディーに歌った。また、久しぶりで緊張すると言いながら、ピアノを弾きながら歌いもしたのだが、それがまたとてもブルージーで感じ入るものだった。曲想からもコール&レスポンスの形からも、もとはジャズではなかったのではないかと思ってしまうのだがどうだろう。

途中で「All Blues」を歌った。ディー・ディー・ブリッジウォーターを思い出して聴いていたところ、やはり、ディー・ディーが好きだとステージで話していた。この先、歌が爛熟してディー・ディーのような存在となることを期待。

ギターの知念さんのプレイは音がくっきりして確信的なフレーズ、素晴らしかった。どこかに吹き込んでいないのだろうか。

ところでハコのノリは東京とずいぶん違っていて(場所によると思うが、一般論)、「どんどん撮って、上げて、楽しんでくださいね~」なんて言ったりして、また客も思い思いの手拍子。私はリラックスして好きである。しかし、カウンターのスツールがアメリカ人向けかと思ってしまうほど高すぎてちょっと疲れた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、XF35mmF1.4


平敷兼七×嘉納辰彦二人展『OKINAWA ランドスケープ』@平敷兼七ギャラリー

2016-10-17 09:08:37 | 沖縄

浦添の「平敷兼七ギャラリー」に足を運び、平敷兼七×嘉納辰彦二人展『OKINAWA ランドスケープ』を観る。このギャラリーは、2009年に亡くなった平敷兼七の娘さんが開いた場であり、「日曜美術館」の平敷兼七特集でも紹介されていた。

ギャラリーの手前には嘉納辰彦、奥には平敷兼七。どちらも1960年代や70年代の古い沖縄を中心とした写真群である。

やはり平敷兼七の写真は素晴らしい。プリントはわりに濃い目である。何が絶妙なのか説明できないもどかしさがある。とにかく人との距離感がとても良いのだ。2008年にニコンサロンで開かれた個展『山羊の肺』には感動を覚えてしまったのだが、そのときと同様に、会場を何周もしてしまう。(ところで、映画館の写真が妙に多いのはなぜだろう。)

休憩スペースには、若い時の平敷が南大東島を訪れたときの手記のコピーが置いてあった。貧窮し、他者との関係に思い悩みながら、写真とは何かについて、誠実極まりない文章が記されている。

嘉納辰彦の写真は、街のお店の人たちのポートレートが中心である。プリントも目線も優しい印象だった。

平敷兼七が南大東島を訪れたときの手記(1970年)

大判カメラ

●平敷兼七
「日曜美術館」の平敷兼七特集(2016年)
仲里効『フォトネシア』(2009年)
『LP』の「写真家 平敷兼七 追悼」特集(2009年)
平敷兼七、東松照明+比嘉康雄、大友真志(2008年)
沖縄・プリズム1872-2008(2008年) 


石川竜一『CAMP』@tomari

2016-10-17 08:46:17 | 写真

那覇のtomariに足を運び、石川竜一『CAMP』。沖縄ではなく、最小限の設備で本州の山に身を置き、撮った作品群である。

石川竜一のこれまでの作品には、ヒトの生々しさが慄然とさせられるほどのヤバさで焼き付けられていた。どう考えてもタダモノではない写真家なのだった。

この作品群からも、(以前の衝撃の余震かもしれないのだが)ヤバさらしきものが届いてくる。つまりバランス感とか調整とかいったものを力でねじ伏せるか暴力的に目を瞑るかによって葬り去り、なにか視てはならないものを顕示させられてしまったような感覚である。プリントを凝視していると、自然の中で、音が聴こえること、皮膚が感じること、自分の身体がそこにあることなどを、敢えて剥ぎ取って写真というものにしたのだという声が聴こえてくるようだ。在廊されていた石川さんとはそんな話はしていないのだけれど、どうなのだろう。

●参照
「日曜美術館」の平敷兼七特集(2016年)(石川竜一氏インタビュー)
『越境広場』1号(2015年)(豊里友行氏と石川竜一氏との対談)
松下初美、川島小鳥、石川竜一、サクガワサトル(2015年)


比嘉良治&北島角子『砂浜にのこり、歌にきざまれた人びとの夢・沖縄』出版祝賀会

2016-10-17 08:00:31 | 沖縄

作品を創ったおふたりのカチャーシー

『けーし風』編集長の岡本由希子さんにお誘いいただいて、比嘉良治&北島角子『砂浜にのこり、歌にきざまれた人びとの夢・沖縄』の出版祝賀会(那覇セントラルホテル)に行ってきた。(ありがとうございます。)

この作品は、写真家の比嘉良治さんが撮ったサンゴ礁の接写のひとつひとつに、沖縄芝居役者の北島角子さんが命名するという実にユニークなもの。サンゴ礁は人格を持っているようでもあり、また命名されたことばも何かそれ以上を言いたくてうずうずしているようでもあり。作品展が今沖縄で開催されているから鑑賞に行こうと思っている。

比嘉良治(ヨシ比嘉)さんの写真については、以前に『海と岩の語りを読む・琉球列島』を観て、琉球石灰岩のマチエールや皮膚感の強調が印象的だった。また、抽象的な写真作品やニューヨーク生活の本があることも知っていた。本当に独特な世界観なのだとあらためて思った。

会場では、写真家の國吉和夫さんがわたしのカメラに目をつけて、おおっそりゃなんだと話しかけてきてくださった。國吉さんはいまはデジタル中心だが(キヤノンのデジタル一眼を下げていた)、以前はライカM3にズミクロン50mm、ライカIIIfになにか28mmを付けていて、コザ暴動の車が燃える写真は前者で撮ったのだという(「コザ暴動プロジェクト in 東京」で展示)。

写真家の比嘉豊光さんからは、いまの沖縄写真を巡る議論について伺った。迂闊にも知らなかったのだが、『越境広場』の第2号で、東松照明についての論考が特集されている。その中で、新里義和「東松照明×森山大道」において、東松照明がかつての自身の発言を否定していたとのくだりがあった。ちょっとこれは個人的には大きな驚きであり、確かめてみなければならない。

また、活動を勝手に敬愛する建築家の真喜志好一さんや、宮城晴美さん、佐喜眞美術館の上間かな恵さんともお話をさせていただいた。良い時間だった。

撮影する國吉和夫さん

真喜志好一さんと比嘉良治さんとのハグ

比嘉豊光さん手持ちの、東松照明の発言否定についての箇所

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●参照
比嘉良治『海と岩の語りを読む・琉球列島』


与世山澄子@インタリュード

2016-10-16 09:30:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

3年ぶりに那覇のインタリュードに行った(2016/10/15)。

Sumiko Yoseyama 与世山澄子 (vo)
Masakuni Nakamoto 仲本政國 (p)

夕方、1階の喫茶で与世山澄子さんがライヴは22時過ぎだとおっしゃっていて、その22時に入ってみると、客は誰もおらず与世山さんがテレビを観ていた(前にもそんな状況があったような気が)。せっかくなのでピアニストを呼ぶとのこと、しばらく与世山さんと雑談をした。ライヴ録音はそのときのコンディションが保証できないから断ったとのこと。また、エラ、サラ、カーメン以降のジャズヴォーカルにはほとんど興味を持っていないようだった。頑固というのか強いこだわりというのか、さすがというべきか。

23時過ぎにピアニストの仲本政國さんが到着し、そのまま準備することもなく突然ソロを弾き始めた。客はわたしひとりである。やがてステージ衣装に着替えた与世山さんが出てきて、「You Don't Know What Love Is」、「Feelin' Good」、「But Beautiful」、「Smile」とあと知らない1曲の5曲を歌ってくれた。

いつもの深いヴォイスが、インタリュードの分厚いカーテンで吸音され、まるで髄だけが残って伝わってくるようだった。

与世山さんはいつも素敵な人である。やはり胸がキュンキュンしてしまった。なお今月は北九州、来月は台湾(はじめてだとか)、12月には名古屋のLovelyと南青山のBody & Soulで歌うそうだ。


かつての与世山さん


マル・ウォルドロンとの写真

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

●参照
与世山澄子+山本剛トリオ@Body & Soul(JazzTokyo)(2016年)
ひさびさのインタリュード(2013年)
いーやーぐゎー、さがり花、インターリュード(2009年)
与世山澄子ファンにとっての「恋しくて」(2007年)
35mmのビオゴンとカラースコパーで撮る「インタリュード」(2006-07年)
2006年10月、与世山澄子+鈴木良雄(2006年)
与世山さんの「Poor Butterfly」(2005年)
田代俊一郎『沖縄ジャズロード』


中川敬@桜坂劇場

2016-10-16 08:45:01 | ポップス

那覇の桜坂劇場で、中川敬の弾き語りライヴがあるというので足を運んだ。わたしはもとよりソウル・フラワー・ユニオンを少々聴き齧った程度であり、ほとんど知らないのではあるが。

Takashi Nakagawa 中川敬 (vo, g)

いきなり森進一の「港町ブルース」を大音量でかけてステージに登壇、ジョニー・キャッシュのTシャツ。いきなり歌い始めたのは、浅川マキの「少年」、高田渡の「生活の柄」。太い声でこんなふうに変わるのか。つかみばっちりである。

歌った曲のほとんどは「ニューエスト・モデル」時代を含めたオリジナル(あたりまえか)。戦災孤児に想いを馳せた「地下道の底で夢を見てる」。奇怪な歌詞の「もっともそうな2人の沸点」。奴隷制に対抗して奴隷を北部に運ぶ「Undergrouond Railroad」について歌った「地下鉄道の少年」(JBの「Night Train」についてはスティーヴ・エリクソンも語っている)。阪神淡路大震災後に被災地でのライヴを頻繁に行い、その状況下であっと言う間に書いてしまったという「満月の夕」(いい歌!)。など。

さらにカバーも歌った。野坂昭如の「黒の舟唄」(野坂は、長谷川きよしや加藤登紀子のヴァージョンの方が売れてしまい拗ねていたという)。デイヴィッド・ボウイの「Changes」。タイマーズの「デイドリーム・ビリーバー」。ボブ・ディランの「Shelter from the Storm」。カーティス・メイフィールドの「People Get Ready」。

いちいちいい歌で、中川さんの野太く熱い声がアコギの音とともに脳内で反響する。シャベリもやたらと面白い。そして、「NO BASE やんばる!」と何度も叫んだ。この余韻がじわじわと浸透してきたころに、CDでひとつひとつの曲を味わってみよう。


『Aziza』

2016-10-15 08:41:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

『Aziza』(Dare2 Records、2015年)を聴く。

Aziza:
Chris Potter (ts, ss)
Lionel Loueke (g, vo)
Dave Holland (b)
Eric Harland (ds)

クリス・ポッター、リオーネル・ルエケ、デイヴ・ホランド、エリック・ハーランドによる全員四番打線。

昨夜から何度も聴いている。現代ジャズの音なのだが、曲によってカリプソ的だったり、フォーク的だったり、アフリカテイストだったり(リルケによるもの)、ロックだったりしてとても楽しい。ポッターのサックスは激しく巧くて、実は何が個性なのかいまだにつかめないのだが、テナーもソプラノもつい耳が追いかけてしまう。ルエケのギターはときにキーボードのようでもあり、挿入される音がとても効果的に聴こえる。ハーランドは動悸がするような浮揚力としての鋭いドラムス。

しかしサウンドの真ん中にいるのは常にホランド。ダンスしながら弾くように繰り出すベースであり、最初から最後までバンドサウンドをダンスの相手のように組み、揺らし、紛れもないホランドの音楽に仕立て上げている。相変わらずの魔術師ぶりであり、嬉しくなってしまった。

●デイヴ・ホランド
デイヴ・ホランド『Prism』(2012年)
デイヴ・ホランド+ペペ・ハビチュエラ『Hands』(2010年)
デイヴ・ホランドの映像『Jazzbaltica 2003』(2003年)
ケニー・ホイーラー+リー・コニッツ+デイヴ・ホランド+ビル・フリゼール『Angel Song』(1996年)
カール・ベルガー+デイヴ・ホランド+エド・ブラックウェル『Crystal Fire』(1991年)
デイヴ・ホランド『Conference of the Birds』(1973年)

●クリス・ポッター
クリス・ポッター『Imaginary Cities』(2013年)
ポール・モチアンのトリオ(1979、2009年)
ポール・モチアン『Flight of the Blue Jay』(1996年)

●リオ―ネル・ルエケ
テレンス・ブランチャード『Magnetic』(2013年)
ミシェル・ポルタル『Bailador』(2010年)

●エリック・ハーランド
ホセ・ジェイムズ『Yesterday I Had the Blues』(2014年)
デイナ・スティーブンス『Peace』(2014年)
デイヴ・ホランド『Prism』(2012年)


フィル・ミントン+ロジャー・ターナー『drainage』

2016-10-14 20:07:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

フィル・ミントン+ロジャー・ターナー『drainage』(EMANEM、1998、2002年)を聴く。

Phil Minton (voice)
Roger Turner (perc)

フィル・ミントンおじさんは相変わらず七色の奇天烈なヴォイス。うなりや叫びは動物のようだったり、子どものようだったり。口笛そのものもあるが、得意技なのかな、喉で鳴らす口笛のような音は何なんだろう。ホントに素敵な人である。

一方のロジャー・ターナーもミントンに負けず七色の変幻自在な繊細なパルスを発する。いや、パーカッションとヴォイスが拮抗したり対峙したりしているというよりは、相互の領域にやすやすと侵犯し、それを受けて次なる風景へとシフトするゲームを愉しんでいるようだ。つまりこれは、相手の技を敢えて受けつつも予定調和には決して終わらないプロレスである。

1998年のセッション(2枚目の2曲目以降)では、突然ミントンが「The Lady Is A Trump」を歌いだし、ターナーが(きっと)ウフフと笑いながらスイングする場面がある。また、前月に亡くなったばかりのトム・コラを偲んでの手合わせもあり、悲痛なものになるかと思いきや、また達人同士の見事な演武になってゆく。


フィル・ミントン、Cafe OTO、2010年 Leica M3、Summicron 50mmF2.0、Tri-X(+3)、フジブロ4号

●フィル・ミントン
フィル・ミントン、2010年2月、ロンドン(2010年)
フィル・ミントン+ロル・コクスヒル+ノエル・アクショテ『My Chelsea』(1997年)
コクスヒル/ミントン/アクショテのクリスマス集(1997年)

●ロジャー・ターナー
蓮見令麻@新宿ピットイン(2016年)
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)


ブラック・アート・ジャズ・コレクティヴ『Presented by the Side Door Jazz Club』

2016-10-14 06:50:06 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブラック・アート・ジャズ・コレクティヴ『Presented by the Side Door Jazz Club』(Sunnyside、2014年)を聴く。

Black Art Jazz Collective:
Wayne Escoffery (ts)
Jeremy Pelt (tp)
James Burton III (tb)
Xavier Davis (p)
Vincente Archer (b)
Johnathan Blake (ds)

これが80-90年代のことであったなら、スイングジャーナル誌的なものを中心にとてももてはやされていたに違いない。つまりハード・バップの正統的な子孫としての「どジャズ」である。

ただし、かつてのリヴァイヴァルの一部がそうであったようには、ジャズの模倣などではない。「どジャズ」のフォーマットを据えて、その中で奔放に「どジャズ」をやっている。従って何度聴いても退屈ではない。

特に、ウェイン・エスコフェリーのスーパードライなテナーの音や、堂々たる体躯から余裕をもって繰り出されるジェレミー・ペルトのトランペットの音に惹かれる。

●ウェイン・エスコフェリー
ウェイン・エスコフェリー『Live at Smalls』(2014年)
ウェイン・エスコフェリー『Live at Firehouse 12』(2013年)

●ジェレミー・ペルト
ジェレミー・ペルト『#Jiveculture』(2015年)
ジェレミー・ペルト『Tales, Musings and other Reveries』(2014年)
ジェレミー・ペルト@SMOKE(2014年)
ジャズ・インコーポレイテッド『Live at Smalls』(2010年)
ジェレミー・ペルト『Men of Honor』(2009年)
ルイ・ヘイズ『Dreamin' of Cannonball』(2001年)


シーア・シェアイック『世界一キライなあなたに』

2016-10-13 07:40:10 | ヨーロッパ

シーア・シェアイック『世界一キライなあなたに』(2016年)を観る。

何でそんなベタな恋愛物を。いや眼が不調なので、片方だけで映画館で鑑賞して疲れないかのテストである(言い訳)。

英国の田舎町。失業中の女性ルーは、介護の仕事を見つける。相手はお城のイケメン御曹司ウィルだが、交通事故で首から下が不随になっていた。ルーのヘンな明るさとダサ可愛いファッションに心を開いていくウィル。一方のルーも、自分を外に向けて押し出してゆく。しかし、ウィルはかつての活動的で華やかな自分自身との落差に耐えられず、安楽死を選ぼうとする。ルーは必死に阻止しようとする。

原題は『Me Before You』。ウィルに出逢うまでのルーの恋人は、良い奴だがあくまで自分中心であり、ルーも嗜好や生活をかれに合わせていた。だが蓋が開いた今、ルーにはかれと別れ、新しい選択をするほかの選択肢はなかった。

まあありえないおとぎ話だが、ルー役のエミリア・クラークの笑顔が可愛く、また何かにおもねった演出でもない(つまり堂々としたベタ)であるため、楽しめた。


ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』

2016-10-12 23:54:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』(Agate、2016年)を聴く。

Donny McCaslin (ts, fl, alto fl, cl)
Jason Lindner (key)
Tim Lefebvre (b)
Mark Guiliana (ds)
Jeff Taylor (vo) (2)
David Binney (additional syn, vo) (5 and 9)
Nate Wood (g) (2)

これまでのレギュラー・グループでもあり、またデイヴィッド・ボウイ『★』のサウンドを形成したグループでもある。

エレクトロニカをベースとしたNYのジャズであり、ときにフォーク的、ときにアンビエント的、また亡くなったばかりのボウイをカバーしてもいる。サックス、キーボード、ヴォーカル(デイヴィッド・ビニーも!)が絡んでゆくサウンドが異常に気持ちよく、ほとんどこれは麻薬である。確かに思い出してみれば、パット・メセニーのグループにおいてペドロ・アズナールの参加がもたらした楽園感にも通じるものがある。

それにしてもマッキャスリンのサックスは完璧にコントロールされているように聴こえる。かなりシームレスに吹き続け、音色の綾も、フラジオでの変化も素晴らしい(迫力を出すためにこけおどしでフラジオ域に突入するデイヴィッド・マレイとはえらい違いだ)。キーボード的でもあるのかな。

そして、パラレルに複雑怪奇なビートがひとりの身体から放たれる、マーク・ジュリアナのドラムス。

●ダニー・マッキャスリン
デイヴィッド・ボウイ『★』(2015年)
ダニー・マッキャスリン@55 Bar(2015年)
ダニー・マッキャスリン『Fast Future』(2014年)
ダニー・マッキャスリン『Casting for Gravity』(2012年)
フローリアン・ウェーバー『Criss Cross』(2014年)

●マーク・ジュリアナ
マーク・ジュリアナ@Cotton Club(2016年)
デイヴィッド・ボウイ『★』(2015年)
ダニー・マッキャスリン@55 Bar(2015年)
マーク・ジュリアナ『Family First』(2015年) 
ダニー・マッキャスリン『Fast Future』(2014年)
グレッチェン・パーラトの映像『Poland 2013』(2013年)
ダニー・マッキャスリン『Casting for Gravity』(2012年)


生活向上委員会2016+ドン・モイエ@座・高円寺2

2016-10-11 21:48:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

座・高円寺にて、ドン・モイエを迎えての生活向上委員会、その実は原田依幸・梅津和時雪解けデュオ。

Yoriyuki Harada 原田依幸 (p)
Kazutoki Umezu 梅津和時 (as, ss, cl, bcl)
Famoudou Don Moye (ds)

原田さんの飽くことなく駆け上ってゆくピアノも、梅津さんの濁ったブルース、ときにコミカルなリードも素晴らしかった。

しかし何よりも、個人的には、今回はドン・モイエである。物理的にデカい音とは言えないような気がするのだが、脳に届く音の圧はとても高い。そしてひとつひとつの周波数が美しい。小さくて大きいファマドゥ宇宙、そこから重力圏外に発せられるパルスはひたすらにカラフルだった。

まるでペナルティを宣告する審判のように腕をくるくる回して叩いたり、スティック1本を口にくわえたり、悠然とベルを鳴らしたり、その身ぶりもまたファマドゥ。19年前の1997年末に、レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジーの一員としてやってきたときの雄姿をまた思い出してしまった。演奏後、モイエは、そのときいただいたサインの横に、「19 years later」と書いてくれた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4開放

※写真は主催者の許可を得ています

●生活向上委員会
生活向上委員会大管弦楽団『This Is Music Is This?』(1979年)
『生活向上委員会ニューヨーク支部』(1975年)

●原田依幸
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2)(2010年)
くにおんジャズ(2008年)
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2007年)

●梅津和時
くにおんジャズ(2008年)
『鬼太郎が見た玉砕』(2007年)
金石出『East Wind』、『Final Say』(1993、1997年)
梅津和時+トム・コラ『Abandon』(1987年)
梅津和時『竹の村』(1980年)

●ドン・モイエ
ババ・シソコ『Jazz (R)Evolution』(2014年)
ワダダ・レオ・スミス『Spiritual Dimensions』(2009年)
ライトシー+モイエ+エレケス『Estate』(2000年)
アーサー・ブライス『Hipmotism』(1991年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『Null Sonne No Point』(1997年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『カミング・ホーム・ジャマイカ』(1995-96年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『LUGANO 1993』(1993年)
ドン・モイエ+アリ・ブラウン『live at the progressive arts center』、レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジー『Serious Fan』(1981、89年)
チコ・フリーマン『Kings of Mali』(1977年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『苦悩の人々』(1969年)


マット・ブリューワー『Unspoken』

2016-10-10 10:00:42 | アヴァンギャルド・ジャズ

マット・ブリューワー『Unspoken』(Criss Cross Jazz、2016年)を聴く。

Matt Brewer (b)
Ben Wendel (ts)
Charles Altura (g)
Aaron Parks (p)
Tyshawn Sorey (ds)

一聴して仰天させられて(こんなことはあまりない)、何度も繰り返し聴いているが、これは凄い。ニューヨーク凄い。

ベン・ウェンデルはマーク・ターナーのように極端に走るブロウではなく音色の濃淡で魅せるタイプのテナーなのかな。この曲者集団において見事な強弱で自分の立ち位置を逃していない。全体を覆うチャールズ・アルトゥラのギターは前に後ろに出入りして、しかし漂うというよりは地に足を付けたうえでの艶やかさで、これもまた絶品。

そして何より素晴らしいのは大技小技で平然とサウンドを煽り続けるタイショーン・ソーリーである(正直言って、今まで良いドラムスだとは思っていたものの、ここまで圧倒されて実感することはなかった)。白眉は、チャーリー・パーカーの「Cheryl」である。最後にようやくテーマのメロディをもってくる構成は、リー・コニッツ『Motion』の「I'll Remember April」的で、しかもソーリーはそのときのエルヴィン・ジョーンズと同等以上のエキサイティングなドラミングを見せている。

●マット・ブリューワー
アントニオ・サンチェス@COTTON CLUB(2015年)

●ベン・ウェンデル
アントニオ・サンチェス@COTTON CLUB(2015年)

●チャールズ・アルトゥラ
トム・ハレル『Something Gold, Something Blue』(2015年)
トム・ハレル@Village Vanguard(2015年)
テレンス・ブランチャード『Breathless』(2015年)
アンブローズ・アキンムシーレ『The Imagined Savior is Far Easier to Paint』(2014年)
デイナ・スティーブンス『I'll Take My Chances』(2013年)

●タイショーン・ソーリー
『Blue Buddha』(2015年)
スティーヴ・リーマンのクインテットとオクテット(2007、2008、2014年)
マイラ・メルフォード『Snowy Egret』(2013年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
フィールドワーク『Door』(2007年)


ジョン・ブッチャー+ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグ『So Beautiful, It Starts to Rain』

2016-10-10 00:14:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

ジョン・ブッチャー+ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグ『So Beautiful, It Starts to Rain』(clean feed、2015年)を聴く。

John Butcher (ss, ts)
Ståle Liavik Solberg (ds, per)

ジョン・ブッチャーの新作は、ノルウェーの打楽器奏者ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグとのデュオ。

もとよりブッチャーの個性は、相手や環境に応じてあまりにも柔軟に変貌を遂げるところにあって、またそれを可能にするサックスのハイテクがある。ここではドラムスやパーカッションの破裂音によって音空間が小刻みに分断され、ブッチャーのサックスもそれに呼応して微分化された音と素早い貌の変化を見せる。

これがブッチャーなので普通に聴いてしまうが、まともに対面すればあまりにもヘンなマルチフォニックの集合体。

●ジョン・ブッチャー
ジョン・ブッチャー+高橋悠治@ホール・エッグファーム(2015年)
ロードリ・デイヴィス+ジョン・ブッチャー『Routing Lynn』(2014年)
ジョン・ブッチャー@横浜エアジン(2013年)
ジョン・ブッチャー+大友良英、2010年2月、マドリッド(2010年)
ジョン・ブッチャー+マシュー・シップ『At Oto』(2010年)
フレッド・フリス+ジョン・ブッチャー『The Natural Order』(2009年)
ジョン・ブッチャー『The Geometry of Sentiment』(2007年)
デレク・ベイリー+ジョン・ブッチャー+ジノ・ロベール『Scrutables』(2000年)
ジョン・ラッセル+フィル・デュラン+ジョン・ブッチャー『Conceits』(1987、92年)