ベルトラン・タヴェルニエ『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)を観る。
もちろんジャズ映画の大傑作であり、わたしも繰り返し観てはいるのだが、出演している多くのジャズメンが鬼籍に入り、ますますこの映画は光を増しているようだ。これがDVDで簡単に鑑賞できるなんて幸せ以外のなにものでもないのだ。
映画は、バド・パウエルと、フランス人イラストレイターのフランシス・ポードラとの間の物語をもとにしている。アメリカではバドらの活動がうまくゆかず、パリに演奏の場を移す。そこでは、かれらは伝説的な音楽家として尊敬された。ニューヨークよりもパリだ、というわけなのだった。パリにおいて、バドのファンだったポードラに世話になり、やがてニューヨークに戻るのだが、ほどなく亡くなった。映画はまた、バドに加え、パリからの帰国中に倒れて亡くなったレスター・ヤングにも捧げられている。
映画においてバド的な音楽家を演じているのがデクスター・ゴードンであり、この貫禄や味わいといったら、本職の役者ハダシである。悔いはあるかと訊かれ、ちょっと思案して、「カウント・ベイシーと共演できなかったことだ」と答えるくだりは、デックス本人の発案によるものだったという。
デックスのテナーの演奏も素晴らしい(ソプラノも吹いている)。悠然として、誰にも似ていないほどのレイドバックを見せて、揺るがない音を出している。以前はデックスはイモだと思い嫌っていたのだが、それは実はかれの独特極まりない魅力なのだった。
共演する人たちも凄い。ハービー・ハンコック、ピエール・ミシェロ(デックスがバドらと吹き込んだ『Our Man in Paris』のベーシストでもあった)、ボビー・ハッチャーソン、ジョン・マクラフリン、ビリー・ヒギンズ、フレディ・ハバード、トニー・ウィリアムス、ロン・カーター、シダー・ウォルトン、ウェイン・ショーター。
ところで、『Stopforbud』(1962年)は、デンマークを徘徊するバド・パウエルを捉えたドキュメンタリーフィルムだが(『Jazz in Denmark』所収)、そこでは、デックスがナレーションの声を吹き込んでいる。デックスは、「40年頃にクーティ・ウィリアムスのビッグバンドで弾いていたときから、バド・パウエルを見ていたよ。それから、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、セロニアス・モンクらと一緒にビバップをやって・・・イノヴェーターだったよ。マイクに向かって、ジョージ・シアリングは1週間に3000ドルもらえるのに、私は黒人だから最低額なんだ、と呟いていたんだよ。」と思い出を語っている。
そのデックスも、映画では、パリにおいてイノヴェーターと正当に評価されるが、生き残るために必死にならず、クスリもやらず、皆に愛される「調和」のもとでも酒におぼれ、結局はニューヨークに帰ってゆく。バドとデックス、虚と実とが重なり絡み合い、業のようなものを感じさせられてしまう。
●参照
『Jazz in Denmark』 1960年代のバド・パウエル、NYC5、ダラー・ブランド
「3人のボス」のバド・パウエル
ヨーロッパ・ジャズの矜持『Play Your Own Thing』