原題:『Miles Ahead』
監督:ドン・チードル
脚本:ドン・チードル/スティーブン・ベイグルマン
撮影:ロベルト・シェイファー
出演:ドン・チードル/ユアン・マクレガー/エマヤツィ・コーリナルディ/キース・スタンフィールド
2015年/アメリカ
「遥か彼方」を目指すジャズミュージシャンについて
マイルス・デイヴィスが活動を休止していた1979年を舞台としているが、それは事実に基づいたものではなく、あくまでもドン・チードルの解釈によって描かれたものである。因みに原題「マイルス・アヘッド(Miles Ahead)」はマイルスが1957年にリリースしたアルバムのタイトルであると同時に、ショパン、ストラヴィンスキー、ラヴェルなどのクラシック音楽までも研究し、「遥か彼方へ」向かうというマイルスの音楽に対する姿勢も現している。
しかしマイルスがこだわっていた女性はこの白いドレスを着た女性ではなく、1961年にリリースしたアルバム『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム(Someday My Prince Will Come)』に写っている妻のフランシス・テイラーだった。
活動休止中のマイルスがラジオから流れてきた1959年リリースのアルバム『カインド・オブ・ブルー(Kind of Blue)』収録の「ソー・ホワット(So What)」を自ら駄作だと罵り、DJに自ら電話をして1960年リリースのアルバム『スケッチ・オブ・スペイン(Sketches Of Spain)』収録の「ソレア(Solea)」をリクエストするマイルスの意図は『カインド・オブ・ブルー』で完成させたモード・ジャズに厭きたという観点以外で言うならばストーリー上、翌年リリースされた『Someday My Prince Will Come』への布石のように見えなくもない。
しかし本作における白眉はマイルスやレコード会社、ミュージシャン、音楽雑誌のライターなどの関係者たちが追いかける「セッション・テープ」で、結果的にそのテープの内容はマイルス本人以外にはその良さが理解できない代物だったということで、私たち観客も含めあれほど死闘を演じたものたちが肩透かしを食うのである。
ところがマイルスにとってはそれはインスピレーションの源泉であり、1980年代になってロックテイストを習得し、再び第一線に躍り出るマイルスのヴァイタリティに唸らされるのである。