原題:『Suspiria』
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:デビッド・カイガニック
撮影:サヨムプー・ムックディープロム
出演:ダコタ・ジョンソン/ティルダ・スウィントン/クロエ・グレース・モレッツ/ジェシカ・ハーパー
2018年/アメリカ・イタリア
政治という「ホラー」について
言うまでもなく『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督 1977年)のリメイクではあるが、同様にホラー映画と呼べるかどうかは微妙である。
ドイツのベルリンの「タンズ・ダンス・アカデミー」へアメリカのニューヨークから主人公のスージー・バニヨンがオーディションを受けて入団するというメインストーリーはそのままで、縦軸に1977年10月に起こった「ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件」とその事件を起こしたドイツ赤軍の物語(因みにオリジナルは1977年2月公開である)、横軸に精神分析医のヨーゼフ・クレンペラー博士の、ホロコーストで亡くなった妻のアンケの物語と、ダンスアカデミーの振付師のマダム・ブランとエレナ・マルコスのアカデミー内での権力争いが描かれているのであるが、興味深いのはクレンペラー博士、ブラン、マルコスの3人をティルダ・スウィントン一人に演じさせている点である。
そのような状況下で主人公のスージーはクライマックスにおいてアカデミーを裏切るような行動に出るのだが、アメリカから来た者がドイツの団体を壊滅に導く物語は、観客に第二次世界大戦の結末を想起させる。その32年後、1977年時においてもドイツは政治活動に失敗し、自身の精神分析も失敗しており、それを暴くのがアメリカ人なのであるが、これはアメリカの勝利というよりも、当時2つに分裂していたドイツの「内紛」による自滅の観が強い。